おとうさん。暑くなく、寒くなく。行楽シーズン。たけなわ、なんだけど。

  おとうさんと、始めた。

   わたしと、おとうさんの。二人の。こころの、旅。

   どの辺まで。行ったんで、しょうか、ねえ。

   電車の旅に、たとえるなら。どのあたり。

   山登りなら。何合目、あたり。なんで、しょうかねえ。おとうさん。

   私たちなら。船旅に、例えたほうが。いいですかねえ。

  「なに、いうとん。始まった、ばかりやで。」

  「もう、息切れしとんか。」

  「しっかり、しいや。」って。

   おとうさんの、声が。聞こえて、きそうですよね。

  きょう、買い物してたら。焼きたて、パンやさんの。ところでね。

  「おとうさん。この、リブサンドにする。」って。

   声が、してね。

  「そう、やなあ。」って。

   その、横で。だんなさんが。言って、いるんだよ。

   まるで。おとうさんと、わたし。みたいだねって。

    思わず、振り返って。見たよ。

  あんな、ふうに。聞こえる。声なら、いいんだけれど。

   聞こえない。こころの、声に。耳を、すましてね。

   二人で。旅を。して、いるんだもの。

   時々、疲れることも。あるんだよ。おとうさん。

  「ああ、つかれた。」って、思ってね。

   見るのは。やっぱり。おとうさんの、写真。

  腹立つけどね。すごく、いい笑顔なんだよ。

   次男が。置いてった。おとうさんの、写真。

  あれ、見てたら。思わず、わたしも、笑顔に、なりますよ。

  とくに、いいのが。

   ランニング姿の、おとうさんが。キスの天ぷら、つつきながら。

   いっぱい、やってる。ところ、なんですよねえ。

  病み上がりの、はずなのに。ほんとに。いい笑顔、なんだものね。

   「なんか。いいなさいよ。」

   「おとうさん。笑って、ないで。」って。

   文句、いってたら。なぜか。涙が、出てきてね。とまりませんよ。

  おとうさんから。笑顔を、もらう、はずだったのに。ねえ。

   声が、聞けないのは。やっぱり。悲しい、ものですね。

  どんなに。文句を、言ったって。わたしの。一方通行、なんだもの。

   そっちの、世界から。こっちが。見えて、いるのなら。

   たまには。「おい」ぐらいは。いいなさいよ。

   ちゃんと。耳を、すまして。まってるからね。

    ねえ。おとうさん。