「あれ。リンゴなんとか・・・」
耳元の、ラジオから。聞こえる。ラジオの、音に。
「おとうさん。なんで。リンゴ、食べて。くれんのん。」て、
いいながら。目を、さますと。
電気は、あかあかと。頭の、上で、光っているし。
おとうさんは、いなくて。わたしは。毛布を、かぶって、ごろ寝だものね。
「ああ、やってしまった。」
疲れてしまって。ちょっと、毛布を、かぶって。
そう、思ったのが、わるかったよね。おとうさん。
夜中に、目が覚めたのが。リンゴの、歌とは。笑えますよね。
「リンゴは。こうやって、皮ごと、丸かじりや。」いうて。
歯の、いい。おとうさんは。皮を、むかなくても。
おいしそうに。丸かじりで、食べて、いたのにね。おとうさん。
わたしたちが、子供のころは。バナナは。高嶺の花の、果物だったけど。
リンゴも。病気の、時しか。食べられな、かったんだよね。
それなのに、ねえ。おとうさん。
入院してからは。リンゴも、バナナも。食べなくなって。しまったん、だよね。
「わしは。歯は、丈夫なんじゃ。」
「すった、リンゴは、いらん。」
「噛むけえ。その物の、味が。わかるんじゃ。」いうてね。
病院で。食事に、出る。すりおろしの、リンゴを。きらってね。
「あれは、リンゴと、ちがう。」
「くちの、中で。何回も、かんだら。おんなじじゃ。」
「ほんの、ひとかけらの、リンゴでも。ええのに、のう。」って。
こぼして、いたよねえ。おとうさん。
近頃、おとうさんの、言ってたこと。よく、分かるよ。おとうさん。
なんでも。ひと嚙みした、時の。口の、中に。広がる。おいしさがね。
そんな、訳でね。入退院を。繰り返してた、くせに。我が家に、いる時は。
食養生らしき、ものは。まったく、しなくてね。
たくさんは。食べられなく。なって、いたけど。好きな、物を、食べてね。
好きな、お酒も、ほんの、ちょっぴり、だけどね。
時々、息子たちと。いうんだよ。
「せっかく。退院後の、メニュー。考えて、いたのにね。」
「おとうさんの。顔、見とったら。」
「つい、つい。好きなもん。作って、しもうて。」
「うまい、なあ。いう。あの、笑顔を、みとったら。」
「ほんとうは。おとうさんに。」
「食養生して、もらった方が、よかったのかな。」ってね。
なにが、正解で。なにが、不正解なのか、分からないん、だけど。
息子たちの、いうことは。いつも。
「おかんの、せいじゃあ。ないよ。」
「最後まで。自分の、好きなように、いきられて。」
「好きなもん。食べれたん、やから。」
「おとんは。あれで、よかったんやで。」ってね。
「おれらは。そう、思うとる。」ってね。
ねえ。おとうさん。