おとうさん。おはよう。
だんだん、日差しが、きつくなって。カーテンを、開けると。
朝日が。むこうの、団地の。屋根に、あたって。まぶしいこと。
カラス対策とかで。屋根を、銀色に、ぬったでしょ。あれの、せいだよ。
まあ。わたしたちが、越して来た時は。マンションとの、境に。
たくさん、木が、あったんだけど。それも。なくなって、しまったしね。
そうそう。銀色の、屋根といえば。あそこですよね。おとうさん。
「おまえ。しっとるか。」
「もうちょっと、いったら。道のむこう。」
「ずうっと、むこうやで。」
「おひさんに、当たって。銀色に光る、屋根が。見えてくるけえ。」
「よう、みとけよ。」言われてね。
車の、外を。見ていたら。
遠くに。キラッと、光る。屋根が、見えたんだよね。おとうさん。
「あれが、なあ。」
「有名な、絵描きの。生家やで。」
「大正ロマンとか、言われとる。やつや。」
「むかし。こっちに、おった時。友達と、行った、ことが、あるんじゃ。」
「屋根の、とこに。風見鶏が、あるんじゃで。」いうてね。
田舎の、行き帰りに。あそこの、道を、通る度に。
おとうさんは。窓の、外を、見るように。いったよね。
ネコを、抱いた。あの人の、絵は。有名だものね。おとうさん。
でもね。おとうさん。田舎に、帰る時は。時間が、無くて。
一度も。おとうさんと、一緒に。
あそこに、行くこと。なかったん、だよねえ。おとうさん。
人は、見かけに、よらぬもの。
ああ、見えても。おとうさんは。
絵を、見るのが。好きだったん、だよね。
おとうさんと。最後に。美術館に、行ったのは。
ちょうど、今頃の。季節、だったよね。
「おとうさん。行く。」
「券。もろうたん、じゃけど。」いうてね。
中之島まで、出かけたんだよね。おとうさん。
ほんとうに。あれが、最後に、なって、しまったよねえ。
『絵よりも、花。』の、わたしは。
あの、公園の。バラが。見たかったん、だけどね。
いま、バラが、見ごろだそうですよ。おとうさん。
行って、みますか。おとうさん。
あの日の、思い出に。したりながら。
バラ園を、歩いて。みませんか。ふたりでね。
いいでしょう。 ねえ、おとうさん。