おとうさん。朝が、早くなりました。

  「やあ。寝過ごした。」って。

  別に。なんの、予定が。ある訳では、ないんだけど。

   飛び起きて、みれば。まだ、何時ですよ。

  ラジオを、つけてみれば。母の日の、話ばかり。

   プレゼンとは、何がいいかと、いう話だよね。

  結婚したての頃は。私たちも。何に、しようかと。考えたものだよね。

  やっぱり、わたしも。嫁の、はしくれ。

   お母さんには。喜んで、もらいたくてね。

  私たちの、若いころは。花は、ぜいたく品で。とくに。田舎ではね。

   だから。今の、ように。花を贈る、習慣は。なかったんだよね。

  それで。考えたのが。日頃。着て、もらえると。思って。

   カラシ色の。ブラウスに、したんだよね。

  「おとうさん。これ、どう。」

  「ええのう。」って。

   おとうさんも、相談に、のってくれてね。

   喜んで、くれるだろうと、思ってたのに。大空振りでね。

  いまなら。空振りの、原因は、よく、分かるんだけど。

   あの、時は。ちょっと。ガッカリ、したよねえ。おとうさん。

  「せっかく、買いに、いったんじゃ。」

  「着てくれても、ええのに。」って。

  おとうさんは。とくに。ガッカリ、していたものね。

  早くから。親元を、離れていたし。

   こどもの、頃は。貧しかったから。

  おめかしした。お母さんの、姿。見たこと、なかったからね。おとうさんは。

  けっきょく。あの服は。よそ行きと、いうことで。

   『たんすの、こやし』と、なって。しまったんだよね。

  つぎの、年からは。畑に、行くときの。

   作業着だの。地下足袋だのとね。

    およそ。プレゼント、らしからぬ。物を。あげたらね。

   喜んで。使って、くれたんだよね。

  あの、時は。ガッカリ、したけど。今。この年に、なって。

   やっと。分かることも。あるんだよね。おとうさん。

  きれいな、服よりも。

   いつも、身につけて。畑に、行っている。

    作業着や、地下足袋のほうが。

   お母さんには。大事な物、だったんだって。ことがね。

  畑に、行って。

   「これは。息子と。息子の、嫁が。・・・・」って。

   思って、いてくれてたに。違いないものね。

    そうでしょう。 ねえ、おとうさん。