おとうさん。おはよう。

  きょうの、朝ごはんは。おとうさんの、好きな。甘い、玉子焼きと。

   ジャガイモと、タマネギの。味噌汁ですよ。

   外の、空気は。寒いので。

    きょうは。熱い、味噌汁が、おいしいよ。おとうさん。

  ベランダの下の、木々は。葉を、つけて。まるで。緑の、じゅうたん。

   見渡すかぎり。緑の、海だよ。きれいだよ。おとうさん。

  むかし読んだ。童話に。

   豆の木を、つたって。雲の、上に。行く話が、あったよねえ。

   目の前の。緑の。海の、向こうには。

    おとうさんが、入院していた。病院の。部屋が、見えるんだよ。

   一歩、踏み出せば。この、緑の、海は。渡れるんじゃ、ないか。

    緑の。じゅうたんの、上は。歩けるんじゃ、ないのかってね。

    思って。しまうん、だけどね。

    歩いて。あの、部屋の。窓辺まで、行けるんじゃ。ないのかってね。

  でも。それは。しょせん。

   せんない、夢物語でね。できない、そうだん。なんだけどね。

   あの、部屋に。目が、行くと。いまでも。おとうさんが、いるようで。

    ついつい、そんなこと。考えて。しまうよ。ねえ、おとうさん。

  でも。おとうさんなら。目のまえの。緑の海を、渡って。

   天国から。わたしの、ところに。

   これるのかも、しれないよね。ねえ、おとうさん。

  もしも。そんなことが、できるなら。

   できたら、いいよねえ。おとうさん。

   そしたら。いつでも。思い出話が、できるもの。

  もしも、そっちから。わたしが。見えて、いるのなら。

   一度。ためして、くださいよ。

   目の前の。この緑の海を、わたって。

    わたしの。心の、中庭に。来ることをね。

  そしたら。思い出話、だけじゃなくて。

   いっぱい。話を、しましょうよね。おとうさん。

   おとうさんが。いなくなって、からの。つもる話も。ありますしね。

   息子たちの。嬉しい、話も。いっぱい、ありますものね。おとうさん。

  ちょっぴり、愚痴も、言うかも。しれませんよ。

   だってね。愚痴が、言えるのは。おとうさん、だけなんですもの。

     ねえ。おとうさん。