「おかん。その、足は。なんや。」

  ペンキ塗りの、代償。名誉の、勲章って、とこですよねえ。おとうさん。

  落ちないように、用心して。屋根の、端を、歩く時は。

   はだしで、したものだから。知らぬ間に。

   ペンキが、足の裏に。ついて、しまったんだよね。おとうさん。

  それを、見て。次男が、言うんだよ。

  「おとんなあ。五右衛門風呂、作った時。いうたんや。」

  「みんなの、手形。残しとくか、いうて。」ってね。

   おとうさん、らしいよねって。みんなで、笑ったんだけど。

  手形も、足形も。いらないよ。おとうさん。

   田舎の。家、じたい。そのものが。おとうさんの。思い出、だもの。

   五右衛門風呂の、デコボコ塗り。一つ、とっても。

    「これは。あの時、塗った。セメントの、あとや。」

    「それは。おとんが。」って。

   次から、次に。おとうさんとの、思い出に。出会えるん、だものね。

  どこにも。手形も、足形も。ないんだけどね、おとうさん。

   おとうさんの、足跡が。

    わたしたち。一人、ひとりの。心の、中に。残っていて。

   たくさんの。思い出と、なって。よみがえって、くるんだものね。

  また。ふたりが、言ってるよ。おとうさん。

   「おとんの、ような。生き方が、したいなあ。」

   「おとんの、ように。」ってね。

  町の、暮らしも。いいけれど。

   どんな。田舎で、あろうと。なにより。ふるさとを、愛した。

    おとうさんの、ような。暮らしが、したいってね。

   「わしの、人生は。ええ、人生じゃった。」ってね。

   最後に、言って。あの世に、行った。

   おとうさんの、ように。なりたいってね。

    もちろん。わたしも。そうだけどね。

     ねえ。おとうさん。