おとうさん。おはよう。

  急に、暑くなったからかな。ベランダの、木に。アブラムシが、いてね。

   『困ったなあ』って、思っていたら。

   飛んで、来てくれましたよ。テントウムシがね。

   ベランダだもの。消毒が、できないから。

    害虫退治は。人力、なんだものね。ねえ、おとうさん。

   こんな、高いところまで。ご苦労さま。ありがとうだよね。

  あの、テントウムシだけど。いつだったか、覚えてる。おとうさん。

  「ベランダの木に。変な虫が、ついとるんよ。」

  「これ、見て。」

  「なんやと、思う。」

  「青虫なら。分かるんやけど。」

  「毛虫でも、ないし。」

  「おかん。へんな。かっこう、しとるで。」

  「ほんまじゃのう。なんじゃろう。」ってね。

   家族、一同。大騒ぎ、したことが。あったんだよね。

  だって、ねえ。それまで。

   テントウムシの、幼虫なんて。見たこと。なかったん、だものね。

  いまの、ように。なんでも。スマホでの、時代で。なかったし。

  あの、突起があって。毛のない。毛虫のような、虫が。

   かわいい。テントウムシに、なるなんて。

   思っても。いなかったんだ、ものね。おとうさん。

  その時。おとうさんが。買ってきて、くれたのが。

   あの。漫画じたての。図鑑と、化学の本だよね。

   「これ、見てみい。」

   「あの、虫は。テントウムシの、赤ちゃんじゃ。」いうてね。

  あれから。ことあるごとに。図鑑や、化学雑誌を。ひっくり、返しながら。

   親子で。ワイワイやって、いたよねえ。おとうさん。

  いまなら。スマホで。なんなく。分かるような、ことも。

   「ちがうで。おとん。」

   「そうか。なあ。」

   「おとんの、方が。おうとると、思うけどなあ。」って。

    親子で。ああでもない、こうでもないと。大さわぎを、してね。

   思い出せば。楽しい時間、だったんだよね。

  「テントウムシは。お天道様の、ところまで。」

  「高こう。登って行くけえ。テントウムシ、いうんじゃ。」って。

   おとうさん。言ってたこと、あったよね。

  あれが、ほんとうなら。我が家に、来た。テントウムシ。

   『わたしが、元気で、やってますよって。』

   空の上の、おとうさんに。伝えて、くれますよねえ。きっと。

     そうでしょ。 ねえ、おとうさん。