おとうさん。おはよう。

  朝が。早く、なりましたよねえ。

  「あさですよ。あさですよ。」って。

  前の。歩道の、木々から。小鳥たちの、やかましいこと。

   どこも。かしこも。自然は、春らんまん。

    これでは。ちっとも。寝て、いられませんよ。ねえ、おとうさん。

  「おはようさん。」て。そとに、出て見たら。

  ツバキの、根元に。ゼンマイが、出てましたよ。おとうさん。

   ひとつや、二つでは。とって、食べるわけにも。いかないしね。

   そう言って、いるうちに。あれよ、あれよと。

    すぐ、葉っぱが。伸びて、しまうとは。思うん、ですがねえ。

  夏に、なったら。暑さから。

   ツバキの、根元を。守って、くれると。思うと。ありがとう、だよね。

  そういえば。ワラビも、ゼンマイも。

   おとうさんが、元気だった、ころの。春の、風物詩、だったよね。

  「クラブの。おっさん、なあ。」

  「四国の、生まれなんじゃて。」

  「写真が、趣味じゃろう。」

  「この時期に、なると。山に、いくんじゃ。写真とりに。」

  「足元に。ワラビが、あると。」

  「もったいない、なあって。思うんじゃて。」

  「こどもん時。よう。とりに、行ったもんじゃ。」

  「それでなあ。ついつい。とって、くるんじゃ。いうてなあ。」

  「あく抜き、せんとあかんし。」

  「手間が、かかるんじゃけど。いるか。いわれたけえ。」

  「うちは。なんでも。ありがとさんよ。いうて。」

  「もろうて、きたけえ。」いうてね。

   もらって、きてくれて。いたものね。おとうさん。

  だからねえ。おとうさん。

   ワラビは。我が家に、とっては。毎年届く。

    春の、風物詩でも。あったん、だけど。

   なにより。

   仕事一筋、自営業で。友達の、少なかった。おとうさんが。

    クラブに、行って。

    仲良くなれた。仲間との。交流の、あかしでも。

     あったん、だよね。おとうさん。

   さしあたり。我が家の。ワラビはと、いうと。

    おとうさんと、わたしの。思い出を、つなぐ。

    春の。風物詩、ならぬ。心の、かけはしって。ところかなあ。

     ねえ。おとうさん。