おとうさん。おはよう。

  おとうさんんが。わたしの、結納の時に。くれた。

   あの『翁と、おうな』の、みょうと人形。

   『共に、しらがに、なるなでは。一緒に、いようよ。』って。

   わたしに、くれた。はずなのにねえ。

   おとうさんは。約束も、果たさずに。さっさと。いって、しまってね。

    なんとか、言いなさいよ。おとうさん。

    わたしは。まだまだ、黒髪ですよ。おとうさん。

  おとうさんが。若い時に、買った。茶色の本箱。

   上段が。飾りケースに、なって。ガラス戸に。なって、いるんだよね。

   何回か、引っ越したけど。ちゃんと。私たちに、ついてきてね。

  その、中に。ちょこんと。二人、仲良く。いまも。立って、いるんだよね。

   もし、ここから。引っ越すような、ことに。なったら。

   あの、人形は。もちろんだけど。やっぱり。本箱も、だよねえ。おとうさん。

  それこそ。わたしが。おとうさんの、ところに。行ったら。

    捨てられそうな、物。ばかり、なんだけどね。

    今は、ねえ。笑われるかも、知れないけど。

    たとえ。引っ越し、しても。このまま。持って、いきそうだよ。

   あれも、これも。おとうさんとの。思い出の品、ばかりなんだものね。

  友達にね。

   「あんた。いつまで。生きると、思うとるん。」てね。

    よく。言われるん、だけどね。おとうさん。

   それは。わたしにも、分からないん、だけどね。

   せめて。おとうさんが。迎えに、来てくれた。ときには。

   「おとうさん。これは、あの時に。」

   「それは。いつぞや。一緒に。買いに、行ったよねえ。」

   「そうじゃ。二人で、のう。」

   「そっちの、やつは。おとうさん。」いうてね。

    二人で。思い出、ばなしが。したいものね。おとうさん。

   「えらい、きちんと。片付いとるけど。」

   「なんも、のうなって、しもうて。」

   「さみしい、のう。」ってね。

   おとうさんに、言われるのは。やっぱり、かなしいもの。

  せめて。おとうさんが。迎えに、来てくれるまでは。

   おとうさんの。思い出の、品に。囲まれて、いたいと。思うのは。

    わたしの、わがまま。なんで、しょうかねえ。

     ねえ、おとうさん。