おとうさん。おはよう。

  陽気に誘われ、ベランダに、出たら。鼻先で。

   シャボン玉が、パッチン。あわてて、目が覚めたら。布団の、中ですよ。

    おかしいよねえ。おとうさん。夢ですよ。

  あしたから、いよいよ、新年度だよ。おとうさん。

  息子たちが。家を。離れて、行って。もう。何年に、なるかしらねえ。

  「大学に、受かって。よかったなあ。」って。

   喜んだ時から、だから。もう。随分に、なるよねえ。

  ワゴンに。お布団を、積んで。笑うんだけどね。おとうさん。

   我が家で、使ってた。お茶碗に、お箸まで。持って、いってね。

   部屋が。ちゃんと。住めるように、なったら。

   「さあ。かえるぞ。」って。いってね。

   一度も。『泊まって、帰ろうか。』って。

    言わなかったん、だよね。おとうさんは。

  あんな、時。おとうさんは。どんな、思いだったん。でしょうかねえ。

  あれから。何度か、引っ越しにも。付き合わ、されてね。

   その、たびに。「おとうさん。おとうさん。」てね。

   おとうさんは。大活躍、したんだけどね。

  息子たちに、かりだされて。大変そうに、見えたけど。

   本当は。おとうさんは、嬉しかったんだよね。たぶん。

  「あしたは、なあ。あれも。持って行って、やれや。」

  「これは。いらんか。」いうて。持っていって。

  おまけに、買い出しも。おとうさんが、してね。

   細々と、したことまで。よく。気が、つくんだよね。おとうさんは。

  おとうさん。自分が、初めて。

   こっちに、来た時のこと。思い出して、いたんだよね。あの時。

   だから。ひとつでも。息子たちが、困らない、ようにってね。

  今にして、思えば。一度ぐらいは。聞いて、みたかったよね。おとうさん。

  「おとうさん。息子たちが、いなくなって。どうですか。」

  「夕食の、相手は。とうとう、私だけですよ。」

  「さみしくは。ないですか。」ってね。

  聞かなくても。答は。分かって、いたんだよね。

   泊まらないでね。「帰ろうか。」の。その、一言でね。おとうさん。

   やっぱり、おとうさんは。寂しかったん、だよね。おとうさん。

  『男は。黙って。・・・』では。ないけれど。

  おとうさんの、弱音も。たまには。聞きたかったよね。

   ねえ。おとうさん。