おとうさん。ヤモリの、こどもやで。

  お風呂場の。風呂桶の、中に。いたんよ。

  「ちょっと、騒がんといてね。」いうて。

   ドアを、開けて。そっと、出して。あげたよ。

  たぶん。こないだ。田舎に、帰ったから。

   荷物に、くっついて。一緒に。やって、来たんだよね。きっと。

   町の、暮らしに。慣れて、くれると。いいんだけどね。

  田舎に、帰ると。どこかで、必ず。出くわすん、だけどね。ヤモリには。

  息子たちが、小さい時は。

  「おとん。ヤモリやで。」

  「おとん。ヤモリや。」いうて。大騒ぎしてね。

  そのたびに、おとうさん。

  「おいかけたら。あかん。」

  「いじめたら。あかんで。」

  「ヤモリは。家の、守り神や。」

  「おまえらの、いやな。あの、ゴキブリも。食うて、くれるんや。」

   いうて。逃がして。やって、いたんだよね。

  いつだったか。おとうさん。

   「こうやって。持っても。だいじょうぶ、なんやで。」いうて。

   息子たちに。ヤモリを、見せようと。したらね。

   ヤモリの、シッポが。切れて、しまってね。

   「おとん。切れたで。」

   「シッポが。切れて、しもうたで。」

   「死んで、しまうんか。おとん。」てね。

    息子たちは。心配してね。

   そしたら、おとうさん。

   「ヤモリは、トカゲと。一緒、なんや。」

   「自分で。シッポを、切って。逃げるんじゃ。」

   「死にゃあせん。」

   「心配せんでも。また。すぐに。生えて、くるんじゃ。」

   「こないだ。塀の、ところに。」

   「トカゲの、シッポが。ころがっとった、やろ。」

   「あれと。おんなじじゃ。」

   「こんど。ヤモリを。見つけたら。よう、見てみ。」

   「もしかしたら。」

   「シッポの、短いんが。おるかも、しれんぞ。」

   「そしたら。この、ヤモリかも。わからんぞ。」いうて。

   おとうさんが、いったらね。

   「そしたら。おとん。」

   「ご苦労様。言わんと、あかんなあ。」って。

   息子たち。言うんだよね。

   「なんでや。」って、聞いたらね。

   「じゃって。ゴキブリ。退治して、くれるんやろ。」いうてね。

   あれには。笑って。しまったよねえ。おとうさん。

  あれから、息子たち。ヤモリを、嫌がりもしないで。

   だいじに、するように、なったんだよね。

     ねえ。おとうさん。