おとうさん。きょうは。一日中、雨だよ。

  「まあ。家で。ゆっくり、してなさい。」って。

   天気の、神様が。言って、くれてるのかもね。

  ちかごろ。雨の日は。家に、いることが、多いしね。出かけても、車だし。

   長ぐつを。はくことは。なくなって、しまったよねえ。

  「わしが。団地に。住みはじめた時は、なあ。」

  「道は。まだ。舗装されとらん、かったんじゃ。」

  「雨の日は。道は。泥んこ、じゃったんや。」

  「それでなあ。」

  「みんな。長グツを、はいて。駅まで、行っとったんやで。」

  「そのころは。駅に。コインロッカーが、あったんじゃ。」

  「駅で。革靴に、履き替えてなあ。」

  「コインロッカーに。長グツ、いれとったんや。」って。

   雨が降ると。おとうさんは。よく。この話を。してたよねえ。

  息子たちが、生まれた頃は。

   道は。だいたい、舗装されては。いたんだ、けれどねえ。

   幼稚園の、行き帰りなんか。

   好んで。水たまりが、あると。入って、行くんだものね。息子たちは。

  それで。あの。青い、長グツを。買って、きたんだよね。おとうさん。

  おとうさんは。子ども達を。喜ばせようと、思って。

   買って、きてくれた。だけなのにね。

  とんでもない、質問が。息子から、とびだしてね。

  「きょう、幼稚園で、なあ。」

  「先生が。本。読んで、くれたんや。」

  「そん中で、なあ。」

  「ネコが。はいとったん、やで。そんな、長い、クツ。」

  「となりの、ネコおばやんちの、ネコも。はくんか。」

  「なあ。おとん。」いうてね。

  あの、有名な。童話に、出てくる。ネコの、話を。するんだよね。

  おとうさん。こまって、しまってね。

   それで、言ったのが。

  「あの、ネコは、むりや。はかれん。」

  「なんで。」

  「こまい、けえ。はいたら、ガボガボや。」

  「もっと、もっと。大きく、ならんとな。」

  「この、クツは、はけん。」いうてね。

  そうしたら。

  「ほんなら。どのぐらいに、なったら。ええんや。」いうから。

  「あした。幼稚園に、行って。先生に。聞け。」って。

   おとうさん。言ったん、だけどね。

  あの、続き。どうなったんで、しょうかねえ。おとうさん。

   下駄箱に、ある。あの、小さい、長グツを、見るたびに。

   おとうさんの、あの。苦戦してた、顔を、思い出して。笑えますよねえ。

   ほんと。こどもって。

   突拍子もない、ことを。考えるもの、ですよね。

    ねえ。おとうさん。