おとうさん。おはよう。

  学校は。春休みなんだよね。

  子供の時は。この、休みだけは。宿題がなくてね。ほんと。嬉しかったよね。

  それよりも。畑仕事、なんかも。一休みの、時期でね。

   なんとなく。おとなも。ゆっくり、していたから。

    親たちも。家に、いてくれることが。多くて。

   そっちの、方が。うれしかったよね。

  それに、なんといっても。あの、『おせったい』だよね。おとうさん。

  以前、タイミングよく。田舎に、帰れた時。その日に、あたってね。

   そしたら、おとうさん。

   「きょうは。おだいさんの。まつりの、日じゃ。」

   「みんな、袋を、もって、回れ。」言うて。

   こどもの頃の、ように。袋を、持って。

    息子たちと。おだいさん巡りを、したんだよね。

   「この、布袋は、『さんや』いうんじゃ。」

   「これに、小銭を入れてな。」

   「むかしは。米も、入れとったんじゃ。」

   「これを、首に、かけて。」

   「『おだいさん』、まつっとるとこ。回るんじゃ。」

   「ほんで。手を、合わせて。小銭、そなえるんじゃ。」

   「米でも、ええんじゃで。」

   「そしたら。駄菓子や、にぎりめし。くれるんじゃ。」

   「おとん。なんも、ないもんは。もらえんのんか。」

   「おれら。なんも。もっとらんで。」って。心配する、息子に。

   「そんなことは、ない。心配、いらん。」

   「『おせったい』じゃもん。みんなに、くれるんじゃ。」

   「ほとけ様は。差別は、せんけえ。」いうて。

    親子で。おだいさんを、巡って。レジ袋、いっぱい。

     駄菓子を、もらって、来てたよね。おとうさん。

  おとうさんや。私の、子供のころは。駄菓子は、なくてね。

   『おせったい』は。

    甘酒か。ササゲを、混ぜた。おにぎりが、多かったんだよね。

   麦ご飯しか、食べられない頃、だったから。

    お米の、おにぎりが。もらえるのは。本当に、嬉しかったよね。

   『おだいさんの、まつり』はね。

   いまでは。なつかしい。おとうさんや、私にとっての、

    忘れられない。春の。一大イベント。だったんだよね。

     ねえ。おとうさん。