おとうさん。いい天気だよね。
でも。外は、ひんやり。こういうの、花冷えと。言うん、ですかね。
そういえば。ここに、越して来た時も。寒かったよね。
やっと、手に入れた。おとうさんの、城だけど。
まだ、息子たちは。小さかったしね。
なんでも、かんでも。新品に、すること。できなくてね。
せめて。天井や、部屋の。壁紙ぐらいは、かえたいけど。
できることは。自分たちで、やろうと。いうことでね。
職人さんの、手伝いは、できないけど。
あとかたずけや。雑用は、自分たちも。手伝ってね。
それに、毎夜、毎夜。少しずつ。
小さな、荷物は。二人で。運んで、きたんだものね。
おとうさんは。自分の、仕事も、あるのに。
ほんとうに、よく。頑張って、くれたよね。あの時は。
それに。火の気が、なかったから。まだ。夜は、寒かったよね。
でもね。おとうさん。この。時期だから、こその。
いいことも、あったんだよね。
「おとうさん。こっちに、来て。」
「ほら。ベランダの、外。」
「な。桜の、海やろ。」
「ほんまやなあ。」いうて。
ベランダの、下の。歩道で。咲き誇る、桜を、見ながら。
「夜桜見物が。こんなとこで、できるんやで。」
「贅沢な、もんや。」
「せっかくの、桜やもん。」いうてね。
次の日には。息子たちを、連れて、きてね。
大きな木の、枝に。チョコンと、座らせて。写真を、とったんだよね。
「これから、毎年。」
「ここで、写真を。とってやる。」
「この、桜と、いっしょに。おまえらも。大きくなって。いくんや。」
いうてね。
あれから、毎年。おとうさんは、あそこでね。
二人の、写真を。撮ったんだよね。
いつの間にか。枝に、チョコンとでは。なくて。
木の横に。立っての。写真に、なったけどね。
あの時の、写真は。二人とも。ジャンパーを、着た。
かわいい、写真だよね。おとうさん。
今度は。息子たちが。
「おれらの。こまい時に、なあ。」
「おとんが。毎年、ここで。写真撮って、くれたんや。」いうてね。
あの木の、ところで。写真を。撮って、あげる。番だよね。
ねえ。おとうさん。