おとうさん。来月はね。

   延び延びに、なつている。長男の、結婚式を。するんだよ。

    やっとだよね。

   「おとうさんに。喜んで、もらう。」

   「おとうさんに。式に、出てもらうんや。」いうて。

    退院を。待って、待って。あんなに、待ったのにね。ダメでね。

   今度は。「おとうさんの、喪があけたら。」言うて。

    喪の開けるのを。待って。いたんだものね。

  それでね。

   「もう。前撮りも、したし。」

   「お世話になった、人にも。友達にも。事情は。はなしとるから、ええ。」

   「式は。うちらだけで、するんや。」

   「服は。なんでも、ええで。」

   「なんなら。彼女と、買いに、行くか。」

   「おれが、買うから。」って。言うんだけどね。

  次男は。

   「おれは。おとんの。あの、スーツ着るわ。」言ってるよね。

  私はね。あれに、しますよ。おとうさん。

  「おとうさん。卒業式に。なに、着ようか。」

  「いつも、着ている。あれしか、ないし。」

  「ほかに。スーツ、ないもん。」いうたらね。

  一緒に。買いに。行って、くれたんだよね。

  「これなら。なにか、あった時でも。つかえるし。」いうてね。

  二人で、買った。淡い。ウグイス色の、スーツだよ。

  「入るかなあ。」ってね。思ったけど。

   着てみたら。入るんだよ。なんとかね。おとうさん。

   それに。『時代は、回る』って、いうけれど。

    時代が。一周して、きたのかな。流行には、関係のない。服なのかな。

   鏡の、前で。見てみたら。なかなか、いけますよ。

    そして。なにより。嬉しいことに。随分。若く、見えますよ。

   おとうさん。新しい、服でなくても。いいよね。これで、十分だよね。

  次男が。おとうさんの、スーツを。着て、行きたいって。言うんだもの。

   わたしも。おとうさんと。二人で、買った。

    あの、服で。行きたいよ。おとうさん。

   せっかく。いまでも、入るんだもの。もったいない。

    それに。思い出の、服だものね。おとうさんと、二人のね。

      ねえ。おとうさん、