おとうさん。だれにでも。スルーしたい、日が。あるんだよね。

   『思い出したくもない。』そんな、日がね。

  でも。そんな日に、かぎって。

   色濃く。心に、のこって。いるもん。なんだよね。

   我が家の。あの日の、ようにね。おとうさん。

  きょうは。お彼岸の、お花。買いに、行ってきたよ。

   ちょっと、早いかな。なんて。思ったん、だけど。

    田舎に、帰るまでに。買い出しに。いけなかったら、困るからね。

   運転しながら。

    やっぱり。おとさんが、いてくれたら。なんて。思って、しまいましたよ。

    ほんとに、情けない。

   そんな、私を。なぐさめようと、思ったのか。

    帰ってきて。ベランダを、見たら。

     緑の、中に。大きな。深紅の、ツバキが。咲いて、いるんですよ。

    おとうさんの、あの、ツバキがね。

   おかしいよねえ。おとうさん。

    あの木は。ピンクと、紅色の。まだら模様の、花が。特徴でね。

    たった、一輪だけ。木の、中心に。深紅の、花が、咲くんだよね。

    何年も。我が家で、育てて。あんなに、大きく。なってた、時だって。

    どんなに、たくさん。花を、付けても。

     深紅の、花は。一輪だけ、だったんだよね。

    「おとうさん。ことしは。どこに、咲くんやろ。」って、言ってたら。

   忘れたころに。

    「ここですよ。」って。

    一輪だけ。顔を、出して、いたんだものね。

   あの木。だめかなって、思ってたけど。

    おとうさんが。剪定してくれた、お陰で。なんとか、復活しくれて。

   でも。去年の。あの、暑さだものね。

    その中で。やっと、つけた。ツボミだから。

    『大丈夫かな。』って。心配して、いたんだよね。

     花を、咲かせること。できるん、やろかってね。

   それが、ねえ。おとうさん。みごとに、咲いて。

   それも。今まで、見たことのない。

    深紅の花が、二輪なんだよね。おとうさん。

   我が家の、ツバキ。

    『粋な、計らい』すると、思わない。おとうさん。

   深紅の、花を。

   一輪じゃあなくて。二輪。咲かせるなんて、ねえ。

   おとうさんと。わたしの、ために。

  せっかくの、計らいだもの。

   今夜は。仲良く。ツバキを、めでながら。

   『まあ、いっこん。』と。いきたい、ところですが。

   飲めない、わたしは。甘酒で。

    ねえ。おとうさん。