おとうさん。おはよう。

  きのう、ラジオでね。『何とか村、何とか村。」ってね。

  次男たちが。就学旅行で、行った。あの、施設の、話を。していたよ。

   あの、近くには。海の宝石の、養殖の村も。あるんだよね。

  そういえば。

   『いつまでも、あると思うな。親と金。」ってね。

   私たち、田舎の子は。小さい頃から。働くのは、当たり前。

   親元から、離れるのは。当たり前と。知らず知らずの、うちに。

    『いつまでも、…』て。言われる、までもなく。

    身につけて。いたんだよね。

  そういえば、おとうさん。あそこに、見学に。息子たちを。連れて、行った時。

   「わしなあ。こどもん時。」

   「この貝の、ふたを開ける。アルバイトに、行ったことが。あるんやで。」

   「むかしは、田舎の、海も。けっこな、かったんじゃ。」

   「うちの、近くでも。この、養殖いうのが。さかん、じゃったんじゃ。」

   「そじゃけえ。大人は。貝の口を、開ける。日雇いに、行っとったんじゃ。」

   「わしもなあ。中学の時。就学旅行の金、作らんと。思うて。」

   「やとうて、もろうたんじゃ。夏休みになあ。」

   「おとなの、もんに。まじって、したんやで。」

   「そじゃけど。一生懸命に、やっても。」

   「子供じゃけえ。手が、おそい。言うて。」

   「ちょっとしか。アルバイト代。くれんのんじゃ。」

   「みんなと、おんなじように。しとるのに。なんでや。言うて。」

   「うちで、おふくろに。愚痴ったもんや。」

   「後かたずけも。ちゃんと、手伝ったんじゃ。」

   「力仕事は。わしが、する。言うて。」

   「文句。言いた、かったけど。」

   「現金が、もらえたんは。あっこ、だけやったんじゃ。」いうて。

    むかしばなしを、していたよねえ。息子たちに。

    息子たちが。どんなに。恵まれて、いるかって。

   「ありがたいと。思わんと、あかんぞ。」言うてね。

  そんな、おとうさんが。むかしを、思い出しながら。

   「いまなら、買うてやれるぞ。どれが、ほしい。」って。

   いうて、くれてね。

   「それなら。これや。」いうて。

   その場で。貝の口を、開けて。出てきた玉が、もらえた。

    あの、コーナーで。

   貝から、出てきた。小さな、玉を。もらって、帰ってきたんだよね。

  ほんとうに。『いつまでも。居ると、思うな。おとうさん。』だよね。

   久しぶりに。あの、玉を、みながら。

   あの日のこと。思い出したよ。

    ねえ。おとうさん。