おとうさん。きょうは。出かけるのは、よそう。思っていたら。
『ぼた』の、エサが。ないんだよ。
仕方ないから。買い出しに、行ったらね。
ホームセンターには。春の花が、いっぱいで。
お陰で。思いがけず。いい目の保養に、なりましたよ。
帰りに。おとうさんが。ずっと、借りてた。事務所の、横も。通ったよ。
いつも、行ってた。おうどん屋さん。
メニューの、中に。あの、メニューも。ちゃんと、ありましたよ。
おとさんと、いえば。『ワカメうどん。』だよね。
「お弁当は」いうと。「うどんに、する。」言うてね。
毎日。事務所の、一階の。うどん屋さんに、行って。
食べるメニューは。いつも。『ワカメうどん』だったんだよね。
いま、思うと。あれは。
おとうさんの、思いやり。だったのかなあ。おとうさん。
最初。二人で。生活を、始めたころは。弁当持って。行って、いたんだものね。
子供たちに。手を取られる、ようになって。
だんだん。おとうさんの、ことが。おるすに、なって。しまったんだよね。
それで。独身の、時のように。
おうどん屋さんに、行くことが。多くなったんだ、ものね。
値段を、考えての。『ワカメうどん』だったのかも。しれないよねえ。
『ワカメうどん』て、メニューを。みたら。
あの頃の、ことを。あれこれ。思い出して、しまったよ。おとうさん。
ワカメと、言えば。忘れられないのが。男の、料理だよね。おとうさん。
「明日は、飲み会や。なに、作ろうか。」いうて。
おとうさんに。聞かれてね。
「おとうさん。スーパーで。茎ワカメが、売っとったんよ。」
「ちょっと、作ってみるから。食べてみて。」いうてね。
豚肉で、クルクルっと、巻いて。フライパンで、焼いて。
甘がらく、味付けして。あげたんだよね。
「うまい。これなら。酒の、あてに。なるわ。」言うてね。
男の、料理の時。みんなで、作ったんだよね。
後で、話を聞いたら。
まあ。昭和二けたの、男の料理だもの。
上出来とは。言えないんだ、けどね。
「火が、強すぎてなあ。」
「ちょっと、焦げて、しもうたんじゃ。」
「後かたずけが。たいへんやった、けどなあ。」
「料理は。好評やったわ。」
「うまい。いうて。もらえたで。」いうてね。
後日談を。いっぱい。聞かされたん、だよね。おとうさんに。
あれも。おとうさんが、元気だったころの。
楽しい。いい思い出だよね。 ねえ。おとうさん。