ボケ一輪。一輪ほどの、暖かさって。

  田舎の、庭から。ボケの、一枝。持って帰りましたよ。おとうさん。

   ピンクの花が、かわいいよねえ。

  いつも。花だけしか。関心が、なかったんだけど。

   あの、ボケの実。果実酒や、ジャムにも、なるんだって。

   近所の、おばあちゃんに。言われたよ。

   薬用効果も、あるんだよってね。

   こんど、帰った時。うまく、その時期に、あたったら。

    やって、みようかな。ねえ。おとうさん。

  暖かく、なったら。思い出すのは。春の、遠足だよね。

  わたしたち。田舎の子は。小学校三年生からは。乗り物に、乗っての。

   一日旅行、だったんだよね。

   その中に。工場見学や、展示物鑑賞なんかも、あったんだけど。

   サーカスを。見に、行くことも。あったんだよね。

  「ゾウって。あんなに、大きかったんか。」

  「ライオン、いうたら。ほまに、すごいなあ。」いうてね。

   ゾウや、ライオンが。やっている、芸より。

    田舎そだちの、わたしたちは。

    初めて見る。本物の、動物に。目を、丸くして、いたんだよね。

  そんな、経験が、忘れられずに、ねえ。おとうさん。

   「あのなあ。サーカスの、券。もろうたんじゃ。」

   「わしも。見に、行ったことが。あるんやで。」

   「ライオンや、ゾウが。芸を、するんや。」

   「すごいぞう。」いうてね。

   喜び勇んで、帰ってきてね。

   子どもたちに。前宣伝を、いっぱいしてね。

   二人を。連れて、いったんだよね。おとうさんは。

  あの、サーカス。今年も、やって来たよ。あの、公園に。

   また。あの、大きなテント。張るのかなあ。おとうさん。

  おとうさんが、いたら。

   「見に、行くか。」って。必ず、言うでしょうに、ねえ。おとうさん。

   おとうさんは。サーカス。好きだものね。

  なんなら、わたしと、行きますか。

   小学校の、時の。遠足の、ように。お弁当を、持ってね。

   そして、帰りに。近くの、公園で。

   二人で、お弁当。開きましょうよ。むかしを、思い出しながら。

    どうですか。いい考えでしょう。おとうさん。

    そうしましょうよ。 ねえ。おとうさん。