おとうさん。ありましたよ。

  この間から。マンションの。木の伐採が、続いてね。

   悲しかったん、ですけどね。

  のり面の。あの木の、根元に。黄色い花が、一つ。咲いて、いましたよ。

   『福寿草』ですよ。「春ですよ」ってね。

  たった、一つなんだけど。「よく。頑張って、ますね。」って。

   思わず。声を、かけましたよ。

  「きょうは。植木の、配布日やで。」いうて。

  おとうさん達の、仲間が。市役所の、植木配布の日を。待ちかねて。

  「これは。ただの、木やけど。ええ木やで。」いうて。

   もらって、来て。植えたんだよね。あの木は。

  そしてね。水やりを、したり。剪定を、したり。

   自分の、子供たちを。育てるのと、同じように。

   大事に。育てて、きたんだよね。

  なんとか。伐採を。免れた、ようですよ。おとうさん。

  植えた、人は。もう、いないんだけどね。

   まるで。あの、『福寿草』

  「忘れんといてや。わしらが。ここに、住んでたことを。」ってね。

   言ってる、ようですよ。おとうさん。

  忘れて、ましたよ。伐採を、免れた木。ほかにも、ありましたよ。

   向かいの。棟の、前の。『小梅』の、木ですよ。

  「おとうさん。もったいないなあ。」

  「今年は。あんなに、よう、実がついとるのに。」

  「あれ。もろうても。かまわん。」いうたら。

  「だれも、とらんは。あんな、小さいのは。ええやろ。」いうて。

  おとうさん。言うたけど。さすがに。木に。なっているのは、やめて。

   奇麗なのだけ、拾ってね。梅酒を、作ったんだよね。

  あれからだよね。わたしが、梅酒作りに。精を出すように、なったのは。

   スーパーで。いい梅が、手に入ったら。

   まずは。梅干しより、梅酒って。作ってね。

   「おとうさん。どんな。」言うたら。

   「甘いわ。これは。」いうてね。

   たいてい、おとうさんの、評価は。いつも、おんなじで。

   飲めない。わたしの、作った。梅酒は。

    なかなか。合格点には。到達しなかったん、だよね。

  やっと、そこそこ。

  「まあ、こんなもんか。」言われてね。

  『来年こそは』と。思って、いたのにね。おとうさん。

  せっかく。あの木、残ったんだもの。

   今年は。あの、梅で。

    「まだ。まだじゃ、のう。」って。

    おとうさんに。言われない、ような。

    おいしい、梅酒。作るからね。

     ねえ。おとうさん。