おとうさん。なんでも。とっておくのが。私の、くせでね。
引き出しの、すみを。突っつけば。ありましたよ。
おとうさんが。息子たちに。買ってあげた。手品の、道具ですよ。
ずいぶん前に。
デパートの、おもちゃ売り場で。買ってあげた、ものですよね。あれは。
あの日は。電車好きの、長男のために。
鉄道模型展を、見に行っての、帰りだったんだよね。
「本物の、電車も。展示、しとるんじゃ。」
「さわらして。やれるけえ。」いうて。
例のごとく。お弁当を。作ってね。みんなで、行ったんだよね。
おとうさんは。
「こっち、来てみい。」いうて。
運転席に、座らせて。二人の、写真を。撮ったり。
鉄道模型の。ジオラマの、箱の前に行って。
「そこの、スイッチ、おしてみ。」
「そしたら。電車が、動くから。」いうて。
ふたりに。スイッチボタンを。おさせたり、してね。
スイッチを、おすと。
「いいまは、やまなか。・・・」
「いまは。はま。・・・」の。メロディーが、流れだしてね。
電車が。小さな、箱庭の。景色の、中を。走ったんだよね。
「ほら、そこの、トンネルのとこ。くるぞ、くるぞ。」
「あっ。行って、しもうた。」
「おとさん。早いなあ。もう。あんなとこや。」
「また。すぐ、まわって。くるけえ。」いうてね。
飽きもせず。よく、遊んだよね。あの日は。
遊んだ、帰りに。
「せっかく。ここまで、来たんやし。」いうて。
あそこの、オモチャ売り場に。行ったんだよね。
そしたら。子供用の。手品商品の、実演販売を。していたん、だよね。
それを、見ていた。息子たちが。すっかり。はまって、しまってね。
「なんで、あの、玉は。増えるんじゃ。」
「不思議じゃ、のう。」
「あれ。こうてほしい。」いうて、言われてね。
「たまには、ええか。」いうて。
おとうさん。気前よく。買っては、あげたんだけどね。
ほかの、オモチャとは。違うと、いうことを。忘れて、いたんだよね。
練習、しないと。いけないと、いうことをね。
結局。息子たちには。まだ、無理で。
オモチャで、遊ぶのは。子供たちでは、なくて。
おとうさんに、なって。しまったん、だよね。
子供たちの、いない、間に。練習してね。
「ここの、机。よく、見とけ。」
「あっ。おとうさん。なんも、なかったのに。」
「あれ。赤い玉や。」
「ほんまに。ふえたわ。」いうてね。
息子たちを。楽しませて。くれたんだよね。おとうさんが。
いまなら。
「おとん。ネタ、バレバレやで。」いうてね。言われ、そうだけど。
あのころは。目を。まん丸くして。
「おとんて。すごいなあ。」って。
言って、くれて。いたんだよね。
やっぱり、捨てられそうに。ありませんねえ。
思い出の。あの、赤い玉。
ねえ。おとうさん。