おとうさん。おとうさんが、元気だったら。

  「今年の、ハッサクは。どうじゃ。」いうてね。

  味見する、ころだよね。そして。

  「これは。あの、おっさんに。」

  「これは。あの、おばさんに。」いうて。振り分けて。

   そして、次男には。箱で、送ってたんだよね。

  「おとん。あのなあ。あげたら、うまいなあ。」

  「おいしいなあ、いうて。喜んで、くれたで。」って。

   次男から。電話を、もらうと。嬉しそうな、顔をしてね。

   ほんと。忘れられ、ないよねえ。あの。嬉しそうな、顔。

  長男はねえ。ハッサク、嫌いだったから。何度も、おとうさんが。

  「持って、帰らんのんか。」

  「送って、やろか。」いうてもね。

  「いらん。おれは。食わん。」いうてね。

  「食わんのん、やったら。だれかに、やれ。」

  「お世話に、なっとる、人になあ。」って。

   おとうさんが。何度、言っても。

    一個だって。持って帰ろうと。しなかったん、だよね。

  かわいそうに、おとうさん。何度。長男に、断られても。

   「人から。なにか、もろうて。嫌なひとは、おらん。」

   「おまえが。食わんのん、じゃったら。」

   「人に。やったら、ええんじゃ。」いうてね。

   息子を思う、親心。親ばか、丸出しで。

    毎年、毎年。言って、いたんだよね。

  それがねえ。おとうさんが。あの世に、行くと。いう時に、なって。

   初めてだよね。おとうさん。

   「おとん。初めて。うちのハッサク、食べたけど。うまいなあ。」って。

    長男が、言うんだものね。

   なんで。もうちょっと、早く。

    おとうさんに。言って、くれなかったん。だろうねえ。

   「おとん。うまいなあ。うちの、ハッサク。」ってね。

    とは。思ったんだけど。

  でも、まあ。遅まきながらとは、いえ。

    おとうさんの、嬉しそうな、顔見れて、よかったよ。あの時は。

  今年は。息子たち。おとうさんから、受け継いで。まだ、間がないし。

   去年の、猛暑で。散々だったしね。

    おまけに。追い打ちが。イノシシに、荒らされてと。

   余り。いいできでも、ないし。数も。少ないんだけどね。

   食べて、みたら。おいしいんですよ。

    やっぱり、おとうさんの、ハッサクですよ。おとうさん。

   味は。ちゃんと。守って、くれてる。みたいですよ。二人でね。

    うれしいでしょう。 ねえ。おとうさん。