おとうさん。おはよう。

  夢の中では。いつも。おとうさんは、元気だよねえ。

  昨日も。「こんなことも、あったやろ。あんなこともや。」言うてね。

   歩く、道々。やかましいこと。立ち止まって、ばっかり。

   せめて。夢の中だけでも。元気づけて、やろうと。思ったのかな。

   ほんと。おとうさん、らしいよね。

  それがねえ。目が覚めたら。ちっとも。覚えて、ないんだよね。

   ここが、また。わたしらしいん、だけどね。

  そう言えば。きょうは、『針供養』って、いってね。

   折れた、針を。コンニャクに、刺して。

    『ご苦労様』って。

   女の神様が、祀ってある、神社に。持って行く、日なんだよね。

   田舎、だったら。『お宮さん』だけどね。

  今の時代。なんでも、使い捨てでね。

   でも。田舎は、今でも。なかなか、そうは、いかないもの。

   だから。糸も、針も。大切な。ものなんだよねえ。

  そんな、針なんだけど。

   使っていて。たったの、一本でも。無くすると。大事でね。あぶないからね。

   家中、みんなで。探すことに。なったんだよね。

  そうそう、思い出しましたよ。あの、珍事件の、話。

  おとうさん。小学校の時。裁縫の時間に。

   一本。見つからなく、なった。ことが、あったんだよね。

   みんなに。探して、もらったけど。見つからなくて。

  「針刺しの。中に。入り込んで、いるんと。ちがうんじゃろか。」

   思うて。『針刺しぼんてん』を。破いてみたら。

   その、中に。針が、挟まって、いたんだよね。

  針は、見つかって。よかったんだけど。

   それからが、大変だったんだよね。

   「わあ。こりゃあ。なんじゃ。」いうてね。大騒ぎになってね。

   『針刺しぼんてん』の、中から、出てきたのは。

   人の、長い、髪の毛、だったん、だものね。

   それまで。『針刺しぼんてん』の、中。見たこと、無かったから。

   みんな。ビックリ、したんだよね。おとうさん達。

  その時。教えて、もらったんだよね。先生に。

   『針刺しぼんてん』の、中には。髪の毛を、入れると、いうことをね。

   髪の毛は。油分を、含んでいるから。針が、さびにくいんだって。

   だから。むかしから。こうやって、つかって、いたんだよって。

   先生の、『ぼんてん』の、中身も。見せて、くれたんだよね。

  今は、縫い針も。余り、使うことも、なくなったから。忘れてたけど。

   思い出しましたよ。おとうさんの。珍事件の、話をね。

     ねえ。おとうさん。