「おい。この石の、下に。おるんじゃ。」
「その、石。ひっくり、返してみい。」って。
おとうさんが、やっと、見つけた。場所に。つれて、行ってくれてね。
ここに、ゴカイが。おるんじゃ。いうて。
二人で。石の間を。掘り返して、いるんだよ。
夢の、中でね。
「ほら。大きなのが。おったじゃろう。」」って。
おとうさん。得意顔で。ニコニコ、してるんだよ。
本当は、ねえ。おとうさん。
田舎でも。今では、すっかり。ゴカイも。とれなくなって、しまって。
買って、帰った。ゴカイが。足りなく、なって。困った、あの日。
「ここじゃ。」言うて。
わざわざ、あそこまで。行ったのに。糸くずの、ような。ゴカイでね。
キス釣りに、行っても。なんの、役にも。たたなかったん、だけどね。
久し振りに。おとうさんの。あんな、笑顔の。夢を、見たよ。おとうさん。
やっぱり、おとうさんは。あの、笑顔が。一番、いいよねえ。
魚釣りしている時の、笑顔だよ。おとうさん。
わたしが。そのへんに、あった。写真立てに。
おとうさんの、写真。入れて、いたでしょ。気になって、いたのかな。
「おとんの、写真たて。」いうて。
新婚旅行先で。買って、来て。くれたんだよ。
おとうさんへの。お土産にね。おとうさん。
ベネチアングラスの。立派な、写真たてをね。
ちょっと、派手かなって。思って、いたんだけどね。
写真を。いれて、みたら。ぴったり。
こう、いうの。『馬子にも衣裳』じゃなくて。
『おとうさんにも、写真立て』って、いうのかな。おとうさん。
おとうさんには。失礼、なんだけどね。
前の、写真立てより。ずっと。よく、見えるんだよね。おとうさんが。
それに。ベネチアングラスだけ、あって。とっても、華やかで。
おとうさんの。笑顔に。ぴったり。
よく、似合っているよ。おとうさん。
もう、一回。惚れ直し、ましたよ。おとうさん。
やっぱり、おとうさんは。まじめに、すまして、いるよりも。
笑顔で、笑っている方が。いいよね。
どんな、写真立てにも。負けない。いい、笑顔、なんだものね。
おとうさんの、笑顔は。 ねえ。おとうさん。