おとうさん。おはよう。

  『一月は、行く。二月は、逃げる。三月は、去る。』ってね。

   きょうから、二月だよ。

   スーパーに、行けば。

   「恵方巻の、予約。」「恵方巻の、予約」って。やかましいくらい。

    忘れていても。節分が、近いんだって。思いだすん、だけど。

  それでも。去年の、いまごろは。季節の、行事に。

   思いを、巡らすほどの。余裕も、なくてね。

    ちょっとの、ことでも。涙を、流し。心、乱れた。時期、だったんだよね。

  これが。一年たったと。いうこと、なのかなあ。

   きょうの、わたしはね。

   あの、日のこと。思い出して。クスッと。笑って。いられるん、だものね。

  団地から、団地に。引っ越した時の、話だよ。おとうさん。

   「季節の、行事は。子ども達に。教えんと、あかん。」

   「巻きずしは。どっちでも、ええけど。」

   「節分の、日にはなあ。」

   「柊の枝に。イワシの、焼いた頭を。刺して、おくもんじゃ。」

   「イワシの。焼いた、においは。オニが、嫌う。言うてな。」って。

    おとうさんが、言うもんだから。 

   柊の、枝を。とってきてね。

    焼いた。イワシの頭を、さして。玄関ドアに。はさんで、おいたんだよね。

   そしたら。朝に、なったら。イワシの、頭が。なくなって、いてね。

   「おとうさん。頭が、ないよ。」

   「頭が、なくなってるよ。」って。騒いで、いたら。

  となりの、入り口の、階の。

   通称『ネコおばちゃん』が、窓から、顔を、出してねえ。

   「ごめん、ごめん。」

   「うちの、ネコが。食べたみたいやわ。」って。あやまられてね。

  あの騒ぎの、後だよね。

   まわりの、みんなに。顔を、覚えられて。いっきに。仲良く、なれたのは。

  でもね。大きな、声では。言えな、かったけど。あれは、災難。

   わたしに、とっては。大災難、だったんだよね。

  「おとうさん。また、来てるで。あの、ネコ。」

  「外、出られへん。なんとかして。」

  「おとうさんの、せいや。」

  「あんなとこ。頭、おくからや。」って。

   おとうさんに、八つ当たりしてね。

  ネコが。ダメな、わたしは。マンションに、変わるまで。

   あの、ネコと。悪戦苦闘、したんだよね。

  ここは。イヌ、ネコ禁止だし。邪気を、払うって、言うから。

   あの、イワシの頭。玄関にと、思うんだけど。

   やっぱり。今年も、やめとくね。おとうさん。

  もし、どこからか。ネコが、来ても。誰も。助けて、くれないものね。

   わたしに、とっては。鬼よりも。ネコの、方が。大敵だものねえ。

    ねえ。おとうさん。