なんでも、『なりたく、ないね。』『なりたく、ないもんや。』って。

   思って、いても。

   なりたくない。病気にも、なるし。

   不幸も。放っといても、むこうから。やって来るしね。

  生きてる、限り。仕方ないよねえ。おとうさん。

   来るな。あっちへ、行け。そう、思っていても。

   気がついたら。そこに。来て、いるんだものね。

  不幸の。どん底に、居る人に。

  『冬が、来たら。冬の、ことだけを。考えて。』と。言う人が、いるけど。

   それは。人間の出来た、人の。いうことで。

   ブツクサ文句を、いいながら。春の来るのを。待ちわびるのが。

    われら。凡人、なんだものね。おとうさん。

   季節の、冬でも。辛いのに。人生の、冬はねえ。

    ほんと。どう、言ったら。いいんで、しょうかねえ。

   自然の。季節が、巡るように。

    人生の。春夏秋冬は。簡単には。いかないもの、なんだよね。

   「はい。春が、きましたよ。」

   「はい。夏ですよ。」って、訳には。いかないん、だものね。

   『やっと、春が。』と、思うまもなく。また、冬にってね。

   なんど。春を、夢見ても。いつの間にか。冬景色ってね。

  思い出したくも。ないけれど。

   何度、そんな。ぬか喜びを。味わった、ことやら。

   おとうさんの、入院ではね。わたしたち、家族は。

  それこそ。人生の。真冬の、ど真ん中に。

   置いてけぼりに。されてた、ままでねえ。わたしは。

   「むかえに。おいで。」って。

   おとうさんに。叫び、続けて。

    あれから。もう、そろそろ。一年が、きますよ。おとうさん。

    聞こえて、ますか。おとうさん。

   あと、何百回。いや。あと、何千回。

    叫んだら。いいんで、しょうかねえ。おとうさん。

   春、夏、秋、冬ってね。自然の、季節が。何回巡れば。

    おとうさんは。迎えに、きてくれるんで。しょうかねえ。おとうさん。

   『千夜一夜物語』じゃあ、ないけれど。

    おとうさんとの、むかし話が。尽きるころには。

     きっと。迎えに。来て、くださいよね。ねえ、おとうさん。

    まって、いますからね。 ねえ。おとうさん。