おとうさん。おはよう。

  きのうねえ。大きな。大きな。花束を、いただいたよ。

  おとうさんが、あの世に行って。葬儀屋さんで。

   親子三人。おとうさんを、囲んでね。『お別れ会』をした時も。

   たくさん。お花、いただいたよねえ。

  早いもんだよ。一年、なんて。

   めめしい、ようだけど。去年の、きょうは。

    「おとうさん。」と、よべば。

    「なんじゃ。」って。まだ、答えて。くれてたんだよね。

   目の、前には。あの時の、光景が。チラチラしてね。

    ついつい。手で、ふれようと。するんだよ。

   でも、手を伸ばせば。すっと、消えていってね。

    さわろうと、しても。さわれ、ないんだよね。

   目の前に。見えて。いるのに。悲しいよねえ。

  なんで。あの時。なんでって。後になって。思えることで。

   テレビドラマや。映画の、ようには。いかなよねえ。

   泣いてる、わたしの、そばで。

   「そんな、顔してたら。あかんよ。はい、ティッシュ。」

   「おかあさん。お寿司つくるの。じょずやて。言うてたで。おとうさん。」

   「どうやって。作るん。」いうてね。

   看護師さんに。励まされて。おとうさんの、病室に。入るんだものね。

   おとうさん。気づかない訳。ないよね。

   「おまえは。嘘は、ようつかん。」

   「馬鹿正直や。」いうて。

   なんかの。取り柄の、ように。おとうさんに、言われてたけど。

    時と、場合。あんな、時は。

     できるものなら。大ウソつきで、いたかったよ。おとうさん。

  あんなに、おとうさんとの。時間が、無いことが、分ってたら。

   黙って、いないで

   「おとうさん。あのなあ。」

   「おとうさん。」てね。

   もっと、もっと。話しかければ。よかったよね。おとうさん。

   そしたら。

   「うるさい、やつや。」って。

   せめて。一言ぐらい。聞くことが、できたのかな。あんな、なかでも。

   あのあと。

    「おおきに。おおきに。」って、いいながら。

    あの世に。いったんでけどね。おとうさん。

    「おおきに」なんて、いらないから。

    「おまえは、なあ。」って、いう。

   いつもの。おとうさんの、声。聞きたかったよ。おとうさん。

   「まえは、なあ」ってね。

   そしたら。

   「なに。おとうさん。」て、答えたのにね。

  「おおきに」では。やっぱり、かなしいよねえ。

   わたしには。答えようが、ないもの。

    ねえ、おとうさん。