「おとうさん。年とって。外に、出れんように、なったら。」

  「二人で、何する。」

  「なんでや。」

  「おとうさん。今。外で。色々、がばってるやろ。」

  「そやけど。自由に。外で。運動でけんよん、なったらや。」

  「そんな、時が。きたらや。」

  「わたしと。将棋せん。」

  「なんでや。」

  「おとうさん。家の中で、すること。なんも、無いもん。」

  「わたしは。反対で。家の中で。一人遊び、できるけど。」って。

   言うたらね。おとうさん。

  「おまえ、将棋できるんか。」いうから。

  「そりゃあ。できるで。『山くずし』」って、いったら。

  「あれは。将棋やない。」言うてね。

   大笑いされたん、だよね。おとうさんに。

  あんまり、笑われたから。

   パソコンで、ルールだけは。勉強してね。

   将棋盤もって。おとうさんの、部屋に、押しかけては。

   「一局。お願いします。」いうてね。

   けど。まあ。三分も、もたないんだよね。

   「もう、一回。」「もう、一回。」ってね。

    毎日。よくやった、ものだよね。

  「ちがう。そうじゃ、ない。」

  「この、駒は、なあ。こう、つかうんじゃ。」て。言われたら。

  「黙っといて。考えとんやから。もう。」言うてね。

   少し、分るように、なったら。

    おとうさんに。えらそうに、文句を、いってね。

  おとうさんより。楽しんでたのは。わたしの方、だったのにね。

   わたしの、相手。してくれる人。いなくなって、しまったよ。おとうさん。

  いつか。おとうさんを。負かして、やろうと。

   パソコン、相手に。勉強して、たのにね。

  もっと、もっと。年、とったらね。おとうさん。

   「おとうさん。ちょっと、まって。」

   「まって。言うとるのに。ずるいわ。」

   「おまえは。まって。まって。ばかりじゃのう。」て。

    二人でね。ああだ、こうだって。言いながら。

  将棋。指した、かったよねえ。おとうさん。

  「一局、お願いします。」って。行ってもね。

   おとうさん。いないんだもの。さみしいよねえ。

  「少しは。上達したか。」って。

   言ってくれる人。いないんだものね。

    ねえ。おとうさん。