おとうさん。やっぱり、冬だよね。

    きょうは。朝から。とっても、寒いよねえ。

  体が、寒いのも、辛いけど。

   先の、見えないって。言う時は。心も。寒くなるもの、なんだよねえ。

  そんな、時に。

   辛い気持ちを、ポケットに。しまって、おけるものならば。

   少しは、楽になるのにねえ。

  そして、ねえ。ちょっと、だけ。ちょっと、だけってね。

   温かい、日に。小出しに、するんだよね。

   お日さまの、日ざしに。温めて、もらいながらね。

   そんなこと、できたら。いいよね。おとうさん。

    人それぞれ、違うけど。だれだって。心が、寒くなる時。あるもんね。

  そうそう。おとうさん。体が、温まるには。お風呂が、一番なんだけど。

   寝る時は。あの、『湯たんぽ』。よく、使ったよねえ。むかしは。

  田舎では。なにも、かもが。貴重品。

   お湯だって、ねえ。大切に。つかったん、だよねえ。

   朝に、なると。湯たんぽの、お湯は。顔を、洗うのに。つかったんだよね。

    だれだって。冷たい、水を。使いたく、ないもんね。

   だからと、いって。湯たんぽの、お湯。

    そう温かくも、ないんだけどね。水よりましで。

   「きょうは。おれの、番じゃ。」

   「あしたは。おまえじゃ。」いうてね。

   こどもの、取り合いに。なったんだよね。

  おとうさん。あの頃の、癖が、抜けないのか。

   朝。顔を、洗う時ねえ。必ず。

  「ちょっと。湯を。くれんかのう。」って。いってね。

  お湯を、使って、いたよねえ。

  「お水の、方が。ええんよ。」

  「しわが、増えるんやから。」って。

   わたしに。嫌味を。言われ、ながらねえ。おとうさん。

  きょうも。ストーブの、上で。お湯が、沸いていますよ。おとうさん。

  「ちょっと。その、湯。くれんかのう。」ってね。

  声を、かけてよ。おとうさん。

   洗い物に、つかう、前に。おとうさんに、あげるから。

  朝に、なって。

  「ちょっと。その、湯。くれんかのう。」って。おとうさんの、声。

  聞けないのは。やっぱり、寂しいものですよ。おとうさん。

   おやかんの、湯。ストーブの、上で。

    グラグラ、いってますよ。

     ねえ。おとうさん。