おとうさん。自然て。本当に。正直だよね。

  だれが、教えるでも、ないのにね。

   ちゃんと。自分の。花の咲く、時期を。忘れないん、だからねえ。

  マンションの、階段横の。日本スイセン。

   いっぱい、ツボミを。膨らませて、いるんだよ。

   あれは。実家の、母が。大好きだった。花だよね。

  おとうさんが。田舎の、八朔を。持って、帰ると。

   「今年は。どうするんや。持って、行かんのんか。」言うてねえ。

   山の上の、おばあちゃんに。おすそ分け。するもん、だから。

   「なんも。お礼、するもんないで。」いうてね。

  ある年。

   「これなあ。三本しか。まだ。咲いとらん、のんよ。」

   「今年、咲いた。スイセン。」

   「これ。お返しには、ならんけど。」言うてね。

    くれたことが、あったよ。ねえ。おとうさん。

   「父ちゃんと、母ちゃんが。植えた、『八朔』が。」

   「母ちゃんの。大好きな、スイセンに。かわったんや。」

   「ええ、においやねえ。」ってね。

   わたしが、言ったら。

   「そうじゃ。おやじの、命日も。近い、ことじゃしのう。」

   「二人で、あの世で。喜んで、いるわ。」言うてね。

   話した、ことが。あったよねえ。おとうさん。

  日本スイセンは。田舎の。あの。浜風の、中でも。

   凛として、立ってね。花を、咲かせる。ぐらいだ、ものね。おとうさん。

    それほど。強い。花、なんだよね。

    そしてね。いい、香りを。放ってくれる。優しい、花だよね。

   だから。雪の、中でも。凛として、咲く花。

   『雪中花』とも。呼ばれるん、だよね。雪国では。

  今。雪の、中で。大変な目に、あっている。人達の、そばでも。

   咲いて。いるん、だろうかねえ。おとうさん。

  あの時。私達が。もらった、時のように。

   たとえ。一本でも、二本でも。いいから。

    咲いて、くれて。いれば。いいのにね。

  『わたしも。ここで、頑張って。咲いて、いますよ。』ってね。

   寄り添って。咲いて、いて。あげて。ほしいよね。

   そっと。あの。優しい、香りを。放ちながら。

    凛とした。あの、姿でね。

     ねえ。おとうさん。