おとうさん。わたしが、こっちに、来た。初めての、年だよね。
「おとうさん。忘年会は。ないん。」言うたら。
「去年までは。ぎょうさん、行っとったで。取引先のに、なあ。」
「ほじゃけど。今年は。やめた。」
「接待ゴルフだけで。こらえて、もろうたわ。」言うてね。
あの、年から。友達同士では。することは、あっても。
仕事では。やらなく、なったんだよね。
その、友達どうしも。
こども達の、相手を。することの、方が。多くなって、ねえ。
それに、我が家の、家計も。考えてね。
夜間高校の、同窓会以外は。
出席しなく。なったん、だよねえ。おとうさんは。
思い起こせば。あの年の、年末。
おとうさんと。二人で、出かけた。食事が。
後にも、先にも。わたしに、とっては。
最初で、最後の。忘年会に。なって、しまったん。だよね。
「きょうは。南に、行くか。」言われてね。
まだ。南か。北、どころか。西も、東も。分からない、頃だもの。
「行く。行く。」言うて。ついて、行ったん、だけどね。
「なにが、ええ。」言われて。
「なんでも、ええよ。」言うたのに。
おとうさん。
「フグが。ええやろ。」言うてね。
「うまい、所が。あるんじゃ。」
「まえに。仕事先の、人と。」
「来たことが、あるんじゃ。この店。」いうて。
わたしを。連れて、行って。くれたんだよね。
ちょっとした、ディナーでも。いいのにね。
自分の、懐具合も。考えずにね。行ったんだよね。
だから。注文した、物を。見て。
「なんや。これは。」
「食うとこ。あらへん。」いうてね。
お酒の、飲めない、わたしは。
最後の。お茶碗、半分の。雑炊に。ありついた、ぐらいでね。
「高かった割に。なんも、あれへん。」言いながら。
二人で。帰って、来たんだよね。おとうさん。
団地まで。帰って。
「うまいなあ。これが、いちばんや。」
「ほんまやねえ。」いうて。
二人で、お茶漬け。食べたん、だけどね。
おとうさんが。精一杯、心をこめて。
わたしの、為に。してくれた。忘年会。
長い。夫婦生活の、中での。たった、一度の。忘年会。
人に、言えば。笑うかも。しれないけど。
あれは。わたしに、とって。忘れられない。いい、思い出だよね。
ねえ。おとうさん。