おとうさん。古い年賀状の、中に。珍しいものが、あったよ。

  毎年。学校で、一枚ずつ、息子が、作ってたやつ、ですよ。

   自分の家、宛てにって。先生が、作らせてた。あれですよ。

   工作の、時間にね。

  クレヨンの、手書きや。印刷。プリントゴッコの、様なのに。混じって。

   『あぶり出し』の、やつが。入って、いましたよ。

   なにも。書いて、いないような。紙なのに。

    火に、かざすと。文字や、絵が。浮き出てくる。あれですよ。

   『家の、人への。ないしょの、メッセージ』と、言うことで。

    先生が。何か、書かせたんで、しょうね。子供達に。

    楽しみは、お正月にってね。

  あの、『あぶり出し』。息子たちが、小さい時。

   田舎で。よく、やりましたよねえ。おとうさん。

  実家では。あの頃。ミカンを、作って。いたからね。

   おとうさん。食べられそうにない、ミカンを。絞って。

    それで、白い紙に。色々、書いてね。

    乾いてから。

   「こっちい、こい。」

   「これから。おとんの。手品の、始まりや。」いうてね。

   「これを。一枚ずつ、もて。」

   「こうやって。火鉢の、上で。ヒラヒラ、やってみ。」

   「こら、近すぎる。」

   「そんなに、近かったら。紙が、燃えるぞ。」

   「気いつけんと。ほら、そこ。」

   言うてたら。おとうさんが、書いてたものが。浮き上がって、きてね。

   「おとん。なんか、書いてあるで。」

   「なんで。」『なんでなん。」

   「不思議やなあ。兄い。」

   「ほんまやなあ。」言うて。

   息子たちを。ビックリさせてね。

   「おとんは。すごいなあ。」って。言わせたん、だよね。おとうさん。

  それからね。

   「手品の、種あかしや。」言うてね。

   ばあちゃんに、白い紙を、もらって。

    瓶に、入れておいた。ミカンの汁で。その紙に。絵を。描いたん、だよね。

    それから、乾かしてから。火で、あぶったら。

     その、絵が。浮き、上がって。きたんだ、けどね。

    幼い、息子たちには。

     真っ白な。紙の、上に。絵が。出てくる、ものだから。

   やっぱり、不思議なようで。

   「おとん。この中に、入っとんは。魔法の、水か。」言うてね。

  近所の、人が。来るたびに。

   だだの。ミカンの、絞り汁なのに。

  「これは。おとんが、作った。『魔法の、水なんや』」言うて。

   自慢して、いたんだよね。二人で。

  思いだしたら。思わず。クスっと。笑って、しまう。

   小さい時の。二人の、思い出だよね。

    ねえ。おとうさん。