おとうさん。おはよう。

  今年は、あたたかいよねえ。それでも、朝、夕は。

   どうしても。ストーブの、お世話に。なって、しまいますねえ。

  これ、ひとつあれば。一人暮らし。

   お湯沸かしから。煮物の、下ごしらえまで。重宝しますよ。

  私たちの、子供のころは。火鉢だったのにね。

   そもそも。今は。エアコンが、主流ですから。

    火鉢どころか。ストーブも、ないうちが。多いんで、しょうねえ。

   火鉢と、いえば。あれも、重宝、しましたよねえ。

    「餅、持ってこい。」いうてね。

    お餅を。焼いて、食べるときは。火鉢に、網をのせてね。

     油断してると。すぐ。焦がして、しまうんだけど。

     焼いた、餅は。美味しかったよねえ。

  おとうさん。ちょうど。去年の、今頃だよね。

   「おとうさん。なに、食べたい。」いうたら。

   「餅が、ええのう。」言うてね。

   買ってきたら。

   「焼いてくれ。」いうてね。

   おとうさん。火鉢で、焼いてた頃を。思い出したん、だろうねえ。

   「ストーブの上で、焼いてくれ。」いうてね。

   「オーブントースターが、あるのに。」言うてもね。

   「あれで、焼いてくれ。」いうてね。

   ストーブの、上で、焼いてね。

    海苔を、まいて。醤油を、つけて。食べたんだよね。

   退院している間は。毎日、毎日。

   「よく、飽きないもんや。」って、いうほど。食べたよねえ。おとうさん。

   本当は。あの時は。『おかゆ』の方が、よかったのかなあ。

    食養生って、言うのが、あるからね。

   おとうさん用の、メニューを。考えて。

    冷蔵庫の、横に。貼って、いたのにね。

    退院したら、これで、いこうって。

   だけど。その、通りには。ならな、かったよね。

   「おとうさん。どんな。」いうたら。

   「うまいわあ。」って、言われれば。

   やっぱり、次も。おとうさんに、

   「うまいわあ。」って。言って、もらいたくて。

   お餅を、買ってきて。焼き。

    おとうさんの、好む物を。作って、いたんだけどね。

   本当に。あれで、よかったのかな。おとうさん。

  時々、長男が。

   「おとんは。何年分の、正月をして。あの世に、いったんやろう。」って。

   言うことが、あるんだけどね。おとうさん。

  そう言えば。あの時。餅を、食べながら、

   「あれも、食べたいなあ。」

   「ついでに、あれも。」って。

   酢レンコンだの、なんだのと。リクエスト、してくれるのは。

    お正月の。おせち料理の、ものばかり、だったよね。

  もしかしたら、おとうさん。何年も、先の分まで。

   あの時。わたしと、二人だけで。

    お正月を。楽しんでくれて、いたのかも。しれないよね。

    楽しい、思い出を。残すためにね。おとうさんは。

  「おとうさん。そんなに。散り急がなくても、いいのに。」って。

  どうして、あの時。声が。かけられなかったん、だろうねえ。わたしは。

    思い出すと。やっぱり。泣けて、きますよね。

    声を、かければ。よかったのか、なあってね。

     ねえ。おとうさん。