おとうさん。おはよう。

  きょうは。ひさびさに、早起き、しましたよ。

   早起きは、何文の、得でしたかねえ。

   外は。真っ暗ですが。星が、きれいですよ。

   これは。やっぱり。得したと。言うことでしょうか、ねえ。おとうさん。

  ラジオを、つけたら。

   「どっけしは。いらんかねえ。 どっけしは。いらんかねえ。」って。

   流れて、きましたよ。なつかしいでしょう。おとうさん。

   「どくけし」って、言葉を。聞くの。何年振りかしら、ねえ。

  おとうさん。以前。

   「わしの。こまい時は、のう。」

   「腹が。痛いんじゃ。言うたら。」

   「すぐに。ばあさんが。『どくけし』を、もってきて。」 

   「これを、飲め。言うてなあ。」

   「苦いけえ。いやじゃ。いうても。」

   「飲まされ、とったんじゃ」ってね。

   言ってたこと、あったもんね。

  あの頃は。置き薬が、一般的でね。

   年に、一度だったか。半年に、一度だったか。忘れたけどね。

   『くすりやの、おっちゃん。』が、やって来てね。

   薬箱の、中を見て。新しい、薬と、交換して。

    つかった、薬の。代金を。払って、いたんだよねえ。

   その、時に。おっちゃんから、もらう。紙の、おもちゃが。欲しくてね。

    子供達は。今か、今かと。おっちゃんが、来るのを。

     待って、いたんだよね。おとうさん。

    女の子なら。紙風船。男の子なら。たしか。紙相撲、なんだけど。

     今の、子供からすれば。なんや。言うかも、しれないけどね。

     みんな、欲しかったん、だよね。紙風船や、紙相撲が。

   おまけも。あれから。いろいろ。変って、いったんだけど。

    それと、同時に。田舎でも。交通も、便利に、なってね。

    すぐに、薬も。手に入るように、なったから。

     置き薬の、習慣も。なくなって、しまってね。

   『くすりやの、おっちゃん』の、姿を。

    見かけることも。なくなって。しまったん、だけどね。

  ラジオから。流れて来た。

   「どっけしは、いらんかえ。 どっけしは、いらんかえ。」って、言う。

    その、歌声を。聞いていたら。

   おとうさんが、『どくけし』を。飲まされた、話を。していた時の。

    何とも言えない、顔。

    あの、『しかめっつら』を、思い出してね。

     おもわず。笑って、しまいましたよ。おとうさん。

    あの、薬はね。今、思い出しても。

     ほんと、苦かったよねえ。 ねえ。おとうさん。