「あの柿木なあ。切らんと。こんえの。屋根を、叩くけえ。」
おとうさん。病院でも。ずっと、気にして、言ってたよねえ。
次男がね。おとうさんの、言いつけやからって。あの木に、登ったんだよ。
柿の木の、枝。切って、くれたよ。
あの柿木。おとうさんと、結婚してから。『実。何個たべたかな。』
あれだけ。田舎に、帰って、くれていたのにね。
「あの木は。わたしが。小学校、低学年の時には。
手で。柿の実が、とれてたんだよ。切ったら。かわいそうだよ。」
って。残してたんだよね。
両親の代で。すくすく、伸び放題。
いまでは。柿の実には。手が、届かないよねえ。おとうさん。
それにね。柿の実のある頃には。なかなか、帰れなかったしね。
きのうも、近所の人が、言ってたよ。
「あんなに。度々。田舎に、帰ってたのに。どうしたんやろってね。」
みんな。心配してくれてたんやね。
墓の花。見たら、分かるってね。
「いつも。きれいな、花。買って来て。さしてるのに。」ってね。
お墓に行く道も。駐車場も。おとうさんが、いないと。
いっぱい。草が、生えてるよ。
だれも。草刈り。してくれないんだよね。
会う人、みんなね。
急に。おとうさん。あの世に、行ったと。思ってるよ。
それで、いいよねえ。おとうさん。
おとうさんが。どんなに、大変だったか。
我が家が、どうだったか。そんなこと、話しても。仕方がないしね。
「家でな。何か。もめごとが、あっても。
外に出て。言うたら、あかんのんじゃ。」って。
祖母に、よく、言われてたよね。
噂の、種を。まき散らすだけだものね。
この、年になれば。わたしも。よく。わかるよ。おとうさん。
母は。よく、やってたよね。
「おばあさん。今日は。・・・・・」
「おばあさん。こんなことが、あったんじゃ。」ってね。
お墓に行って。義母の、墓に、向かって。話してたんだよね。
そして。なにがあっても。次の日は。ケロっと。してたよね。
「おばあさんが、夢枕に立つと。ええことが、あるんじゃ。」って。
言うのが。母の、口癖だったよね。
まるで。今の、わたしは。あの時の、母のようだよね。
これから先も、わたしは。
「おとうさん。こんなことが、あったんだよ。」
「おとうさん。どうしよう。」って。
母のように。「おとうさん。おとうさん。」て。
言うかもしれないよ。
そしたらね。相談に、のってよね。
そして、おばあさんが、したように。
夢枕に。時々でも、いいから。立ってくださいよね。
ねえ。おとうさん。