【第64回 毎日芸術賞受賞作】

 

【第57回 吉川英治文学賞受賞作】
 
この身体こそ、文明の最後の利器。
 
29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者。
子宮・自由・尊厳を赤の他人に差し出し、東京で「代理母」となった彼女に、失うものなどあるはずがなかった――。
 
北海道での介護職を辞し、憧れの東京で病院事務の仕事に就くも、非正規雇用ゆえに困窮を極める29歳女性・リキ。「いい副収入になる」と同僚のテルに卵子提供を勧められ、ためらいながらもアメリカの生殖医療専門クリニック「プランテ」の日本支部に赴くと、国内では認められていない〈代理母出産〉を持ち掛けられ……。
 
『OUT』から25年、女性たちの困窮と憤怒を捉えつづける作家による、予言的ディストピア。
 
現在NHK総合のドラマ10で放送中の『燕は戻ってこない』。メインテーマは「代理母出産」。現在、日本では代理母出産は認められていない。非正規社員のリキは1,000万円という高額報酬を自ら提示し、承諾される。依頼者は元バレーダンサーの草桶基とその妻悠子。こちらはセレブだ。
 
社会的に搾取され困窮を極める女性、そこに付け入るように生殖医療ビジネスが忍び込む。お金のために他人の子を産むという行為は、例えば性風俗で体を売る行為と、いったい何がどう違うのだろう。
 
しかしリキは、若さや容貌を値踏みされ、「産む機械」とみなされても、1,000万円で今の生活苦から抜け出せるのであれば、代理出産を引き受けてもいいと決意する。リキはたくましくて強い。草桶夫妻や悠子の友人の春画画家、セラピスト(性感マッサージ)のダイキらリキを取り巻く人々との関係性が深まっていく中で、リキは前を見て突き進む。そこに悲壮感はなく、むしろ期待感がリキを応援していた。
 
妊娠した子供は双子。衝撃のラストシーンは、桐野ワールドあるあるあんぐり
女性についての、結構重めな社会的テーマの作品だったが、桐野さんの若者へのエールみたいなものが感じられた。ドラマについてはまた機会を改めて音譜