海外遠征11日目 プチ密入国 | 見えない翼

見えない翼

私達は誰もが夢に向って翔る“見えない翼”を持っています。しかし、多くの人々が夢を追う事を諦め、翔る事をいつしか忘れて・・・。
そんな世の中にあって、パラグライダーの世界一へ挑戦し続ける父と重度の障害を持ちながらも懸命に生きようとする息子の奮闘日記です。

<ツアー 2日目 55km,4時間> 晴れ
コンディションは良好! 過ぎるかな(初めての人には)?
このエリアのオーソドックスなコース(タスク)を飛ぶ事にした。


ストールという山から飛び立ち、
西にあるイタリアとスロベニアの国境(ボーダー・ライン)まで
飛んで行き、プチ密入国をした後、
東にある隣のエリア(トルミンのコバラ離陸場)に行き、
再び、コバリドの町に帰ってくる。(55km)


1.レースではないので、遅れても焦って低高度で移動しないこと。
2.集団が引き返してきたら、目的地の手前でも引き返すこと。
3.無理にコバリドのメイン・ランディングに帰ろうとせず、
  どこでも構わないので、安全に降ろすこと。

以上が今回のツアーの最低限のルールである。


無線機等の計器のチェックは、常識なのでくどくどは言わなかったが、
毎回一人ぐらいは、計器関するトラブルを起こす方が居るものだ。
得てしてそういう人に限って、空中で注意を伝えなければならない
状況になる事が多いのだが・・・。 (^^ゞ



テイクオフ(離陸)場でブリーフィング(状況説明)をおこなった。
コースを解説するために一言いうと・・・。
ある人は、地図を見て「どこどこ??」(ここは何処私はだれ状態)
ある人は、GPSを操作しながら「どうやるの??」
ある人は、景色を見て「ランディング(着陸)場は?」


「すみません、ブリーフィングではメモを取って、
 分からないことは後で個別に質問してください!」というと、
「メモを忘れた!」「ペンを忘れた!」とまたまた大騒ぎ。
何だか一抹の不安が・・・。 (ーー;)


スッタモンダしたが、それでも、何とか準備を終えた。



さあ、いよいよフライトだ!!
時間は12時半頃(二時間引いて10時と考えると日本に近い)だが、
ヨーロッパではこれからがフライト時間だ。


全員のテイクオフ(離陸)を見届けて、最後に川地が出た。
(初めての場所だと緊張して、失敗する方が少なくはないからだ)
そして、全員が国境(約7km)まで飛んだ。


国境
カメラ T氏撮影 2007/07/23

Border(国境)の上空にて(正面の山からイタリア)



テイクオフのある東西に伸びる尾根は木も多く日本的な山だ。
一つ北側に平行に伸びる尾根は、岩が剥き出しのアルプスの山である。
ノンビリ派は前者を、ガンガン派は後者を飛ぶ事にしていた。
早速、ガンガン派が岸壁に突っ込んだ。


前山後山
カメラ K氏撮影 2007/07/23 左峰:ガンガン 右峰:ノンビリ



エディーのタンデムがノンビリ派に追いついたので、
川地はガンガン派の山に移動した。
東西に伸びる尾根を二つの集団が東へ向かって移動する。


初めての岸壁で余りスピードを上げると危険だし、
ノンビリ派と同じぐらいにトルミンのコバラ離陸場へ到着するように
ゆっくりと移動した。



ノンビリ派も順調に移動していた、その時、事件は起こった。
いつもエリアでは決まった景色を見て、何時間でも飛べるTさんだが、
見知らぬ山々と刻一刻と移り変わる景色に、
「山に上がる前に見たランディングが何処なのか?」
「自分が何処を飛んでいるのか?」分からなくなり、
更に、エディーとの距離が離れた事が不安要素に拍車をかけて、
パニックに陥ってしまった。


ふと目に入ってきた見覚えのあるホテルと教会の建物が
帰巣本能を呼び起こし、進行方向を90度変えさせた。
しかし、ホテル上空に辿り着く手前には、深い渓谷があり、
下降気流と乱気流が待ち受けていること容易に想像できた。


川地の必死の制止もMさんの耳、いや脳には届かず。
「ホテルに帰ります」の無線と共に渓谷に吸い込まれて行った。
(以後この渓谷を我々はM谷と呼ぶ事にした)



幸いな事に充分な高度があった事で、
無事にデンジャラス(危険)ゾーンを通過し、
ホテルの近所に降りる事が出来た。
川地の白髪がまた増えたことは間違いないだろう。


後で発覚したことだが、Tさんはバリオ(高度&昇降計)の設定で、
テイクオフ(離陸)場を基準に、つまり0mに合わせていた。
空中ではテイクオフ場から?00m上昇といった見方しか出来ず、
本当の高度(地面との距離)が掴み難い。


実際には1700mもの高度を飛んでいたにも拘らず、
バリオには300m(テイクオフ(離陸)場は標高1400m)と
表示されていたことも、不安に拍車をかけた要因となったようだ。
平常心であれば、なんでもない事なのだが・・・。 (^^ゞ


アクシデントとは技術不足からよりも、精神面が原因で

発生することが多い事は以前にもblogで記載したが、
今回も正にその良い例である。


普段から極力、不安要因は取り除いておくことが賢明である。

だから、川地塾では、
必ず、『テイクオフ(離陸)場で標高を入力する』ように言っている。



その後、皆を引き連れてトルミンのコバラ離陸場上空を通過した後、
コバリドに引き返す事にしたが、谷風が強くなったので、

大半は途中の谷に降りてしまった。

川地はコバリドの着陸場へ帰ってきて、

Kさんと共にもう一度上げ直して、

山の中腹にあるホテルの横の教会の前にランディングした。 (^_^)v



本来なら川地塾は夜部があるのだが、
皆さん疲れていてヘロヘロだったので、
食事後に直ぐに解散して、寝てもらった。