<保育園->療育施設>
翔は寝起きは良いのだが、食欲が出てくるのは遅い。
だから、朝は何時も食事に時間が掛かるし、余り食べない。
特に、牛乳はたくさん飲もうとしない。
今日も朝から、「飲みなさい!」、「いらない!」の
押し問答が繰り返された。
パパがキッチンに行くために席を離れたその時、事件は発生した。
テーブルの上に置いてあった飲みかけの牛乳が入った
マグカップをひっくり返す音がしたのだ。
当然ながらマグカップは翔の手の届かない所に置いてあったはず?
翔は、体を揺すって椅子を前進させ、テーブルに近づいた後、
今度はテーブルクロスを引っ張ってマグカップを引き寄せたのだ。
物音に気付いて、慌ててテーブルに戻ると、
牛乳をたっぷりと含んだテーブルクロスと、
翔の笑い顔が洩れなく付いてきた。
翔の顔には、これで牛乳を飲まなくても済むぞ!!と書いてあった。
これからは、うかつにテーブルの上に物を置けない。
ノートPCは翔にとって、格好の餌食だ。
とにかく、手の届くものなら何でも手を出す。
療育施設に到着して、部屋に入る時にアクシデントが発生した。
車椅子からUFO(歩行器)に乗せ変えて、歩かせて入ろうとしたのだが、
車椅子の車輪のロックが掛かっていない事に気付いたので、
ロックをしようと立ち上がった時に、
翔が自分でUFOに乗り移ろうとUFOに手を伸ばしたのだ。
UFOも車輪のロックがされていないので、
車椅子からスルスルと遠ざかる様にUFOは離れ、
翔も釣られるように前のめりになって、前方に転げ落ちてしまったのだ。
川地も黙って見ていた訳ではなく、
直ぐに手を伸ばして食い止めようとしたが、
余りにも瞬間的に起こったので、間に合わなかった。
翔のメガネのフレームが少し曲がったのと、
顔に擦り傷が出来ただけで済んだ事は不幸中の幸いだった。
初めは何が起きたか分かっていない様子だったが、
直に痛みが込み上げて来て泣いた。