翔、転落! | 見えない翼

見えない翼

私達は誰もが夢に向って翔る“見えない翼”を持っています。しかし、多くの人々が夢を追う事を諦め、翔る事をいつしか忘れて・・・。
そんな世の中にあって、パラグライダーの世界一へ挑戦し続ける父と重度の障害を持ちながらも懸命に生きようとする息子の奮闘日記です。

<保育園->療育施設> 晴れ

翔は寝起きは良いのだが、食欲が出てくるのは遅い。

だから、朝は何時も食事に時間が掛かるし、余り食べない。

特に、牛乳はたくさん飲もうとしない。


今日も朝から、「飲みなさい!」、「いらない!」の

押し問答が繰り返された。


パパがキッチンに行くために席を離れたその時、事件は発生した。

テーブルの上に置いてあった飲みかけの牛乳が入った

マグカップをひっくり返す音がしたのだ。

当然ながらマグカップは翔の手の届かない所に置いてあったはず?


翔は、体を揺すって椅子を前進させ、テーブルに近づいた後、

今度はテーブルクロスを引っ張ってマグカップを引き寄せたのだ。

物音に気付いて、慌ててテーブルに戻ると、

牛乳をたっぷりと含んだテーブルクロスと、

翔の笑い顔が洩れなく付いてきた。

翔の顔には、これで牛乳を飲まなくても済むぞ!!と書いてあった。


これからは、うかつにテーブルの上に物を置けない。

ノートPCは翔にとって、格好の餌食だ。

とにかく、手の届くものなら何でも手を出す。



療育施設に到着して、部屋に入る時にアクシデントが発生した。

車椅子からUFO(歩行器)に乗せ変えて、歩かせて入ろうとしたのだが、

車椅子の車輪のロックが掛かっていない事に気付いたので、

ロックをしようと立ち上がった時に、

翔が自分でUFOに乗り移ろうとUFOに手を伸ばしたのだ。

UFOも車輪のロックがされていないので、

車椅子からスルスルと遠ざかる様にUFOは離れ、

翔も釣られるように前のめりになって、前方に転げ落ちてしまったのだ。


川地も黙って見ていた訳ではなく、

直ぐに手を伸ばして食い止めようとしたが、

余りにも瞬間的に起こったので、間に合わなかった。


翔のメガネのフレームが少し曲がったのと、

顔に擦り傷が出来ただけで済んだ事は不幸中の幸いだった。

初めは何が起きたか分かっていない様子だったが、

直に痛みが込み上げて来て泣いた。