上清宮に戻った洪信は、翌日三清殿の境内を案内されます。やがてその中の「伏魔之殿」という御殿にやって来ます。ここは唐代、洞玄国師がここに魔王を封じ込めた場所で、爾来歴代の天師が決して御殿の門の鍵を開けることなく、封印して守ってきたのですが、好奇心に駆られた洪信が無理やり門を開けさせ、御殿の中の封を解かせます。すると……。いよいよここにその後の物語に登場する、国を騒がす魔物たちが世に放たれることとなります。『水滸伝』第一回の最後の部分になります。ご覧ください。
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次日早膳已后,真人道众并提点执事人等请太尉游山。太尉大喜。许多人从跟随着,步行出方丈,前面两个道童引路,行至宫前宫后,看玩许多景致。三清殿上,富贵不可尽言。左廊下,九天殿、紫微殿、北极殿;右廊下,太乙殿、三官殿、驱邪殿。诸宫看遍,行到右廊后一所去处。洪太尉看时,另外一所殿宇:一遭yī zāo都是捣椒dǎo jiāo红泥墙;正面两扇shàn朱红槅子gé zǐ;门上使着胳膊gē bo大锁锁着,交叉上面贴着十数道封皮fēng pí,封皮上又是重重叠叠chóng chóng dié dié使着朱印;檐yán前一面朱红漆金字牌额pái é,上书四个金字,写道:“伏魔之殿”。
翌日朝食が済むと、真人や道士たち、並びに提点、執事らは太尉に寺院の中を見学してもらった。太尉は大いに喜んだ。多くの人々がそれに従い、歩いて方丈を出ると、前にはふたりの道童が引率し、宮殿の前院や後院へ行き、様々な風景を眺めた。三清殿は、その豪華さが言い尽くせぬ程だった。左廊を下ると、九天殿、紫微殿、北極殿があり、右廊を下ると、太乙殿、三官殿、駆邪殿があった。諸々の宮殿を一通り見ると、右廊の端のとある処に来た。洪太尉がそれを見ると、別にひとつの殿宇があった。建物の周囲は山椒を搗いて混ぜた赤く塗った壁で囲まれ、正面は二枚の朱色の開き戸になっていた。門には両腕で抱えるほど大きな錠が掛けられ、その上に交叉して十数枚の封印が貼られ、封印の上にもまた何重にも朱印が押されていた。軒の前には朱色の漆の面に金字で書かれた扁額が掲げられ、その上には四つの金字で、「伏魔之殿」と書かれていた。
太尉指着门道:“此殿是甚么去处?”真人答道:“此乃是前代老祖天师锁镇suǒ zhèn魔王之殿。”太尉又问道:“如何上面重重叠叠贴着许多封皮?”真人答道:“此是祖老大唐洞玄国师封锁魔王在此。但是经传一代天师,亲手便添一道封皮,使其子子孙孙不敢妄开wàng kāi。走了魔君mó jūn,非常利害。今经八九代祖师,誓不敢开。锁用铜汁tóng zhī灌铸guàn zhù,谁知里面的事。小道自来住持本宫三十余年,也只听闻。”洪太尉听了,心中惊怪,想道:“我且试看魔王一看。”便对真人说道:“你且开门来,我看魔王甚么模样。”真人告道:“太尉,此殿决不敢开。先祖天师叮咛dīng níng告戒gào jiè:今后诸人不许擅开shàn kāi。”
太尉は門を指さして言った。「この御殿はどういう場所なんですか?」真人が答えて言った。「ここはすなわち歴代の祖師が魔王を閉じ込め鎮めた建物です。」太尉がまた尋ねた。「どうしてこの上に何重にも封印が貼ってあるんですか?」真人が答えて言った。「これは曾て大唐の洞玄国師が魔王をここに閉じ込めたのです。けれども次の代の天師に伝える時、自ら一枚封印を追加し、子々孫々敢えて妄りに開かせないようにしました。魔王が逃げたらたいへんなことになるからです。これまで八九代の祖師が、敢えて開かぬと誓いました。溶かした銅を流して鋳込み施錠してあるので、中がどうなっているか誰にも分かりません。わたしが本宮の住持になってから、三十余年になりますが、これも皆ただ聞いた話です。」洪太尉はこう聞いて、心の中ではびっくりして、こう思った。「それにしても、試しに魔王を一目見たいものだ。」それで真人に言った。「ちょっと門を開けてもらえませんか。魔王がどんな姿かたちをしているか、見てみたいのです。」真人が告げて言った。「太尉殿、この御殿は決して開けはしませぬぞ。先祖の天師様がよくよく言いつけ、戒めておられます。今後も何人も勝手に門を開けるを許さぬと。」
太尉笑道:“胡说!你等要妄生wàng shēng怪事guài shì,煽惑shān huò百姓良民,故意安排这等去处,假称锁镇魔王,显耀xiǎn yào你们道术。我读一鉴jiàn之书,何曾见锁魔之法。神鬼之道,处隔chǔ gé幽冥yōu míng,我不信有魔王在内。快疾kuài jí与我打开,我看魔王如何。”真人三回五次禀说:“此殿开不得,恐kǒng惹rě利害,有伤于人。”太尉大怒,指着道众说道:“你等不开与我看,回到朝廷,先奏你们众道士阻当zǔ dāng宣诏xuān zhào,违别wéi bié圣旨shèng zhǐ,不令我见天师的罪犯;后奏你等私设此殿,假称锁镇魔王,煽惑shān huò军民百姓。把你都追zhuī了度牒dù dié,刺配cì pèi远恶军州yuǎn è jūn zhōu受苦。”真人等惧怕jù pà太尉权势,只得唤几个火工huǒ gōng道人来,先把封皮揭jiē了,将铁锤tiě chuí打开大锁。众人把门推开,看里面时,黑洞洞地,但见:
太尉が笑って言った。「いい加減なことを言って。あなたは妄りに奇怪な話をでっち上げて、大衆や良民を惑わし、わざとこんな場所を作って、魔王を閉じ込め鎮めたと称し、あなたがたの道術をひけらかしておられるんだ。わたしは国子監に収蔵されたあらゆる典籍を読んだことがあるが、未だ曾て妖魔を鎮め監禁する法術など見たことがない。神霊や亡霊のいる世界は、人の暮らす世界とは明確に隔てられているから、わたしは魔王がこの中にいるとは信じられない。さっさとわたしに門を開けてくれ、わたしが魔王がどんな様子か見てやる。」真人が何度も繰り返してこう申し上げた。「この御殿を開けることはできません。おそらく酷いことが引き起こされます。人々を傷つけることになります。」太尉は大いに怒り、道士たちを指さして言った。「おまえらが門を開けてわたしに見せてくれないなら、朝廷に帰って、先ずおまえら道士たちが詔書を宣読するのを妨げ、聖旨に背き、わたしに天師の罪を見せないようにしたと奏上してやる。それからおまえらが私的にこんな建物を建て、偽って魔王を閉じ込め鎮めたと称し、軍民や大衆を惑わしていると奏上してやる。おまえたちは皆僧侶の身分をはく奪され、顔に入れ墨をされて辺境の環境劣悪なところに流され、重労働をさせられることになるぞ。」真人らは太尉の権勢を怖れ、何人か寺の雑役夫を呼んで来ると、先ず封印を剥がし、金槌で叩いて錠前を開けた。人々が門を押して開け、中を見ると真っ暗闇であった。その有様は:
昏昏默默hūn hūn mò mò,杳杳冥冥yǎo yǎo míng míng。
数百年不见太阳光,亿万载zǎi难瞻zhān明月影。
不分南北,怎辨东西。黑烟霭霭ǎi ǎi扑pū人寒,冷气阴阴侵qīn体颤zhàn。
人迹不到之处,妖精往来之乡。闪开shǎn kāi双目shuāng mù有如盲máng,伸出两手不见掌。
常如三十夜,却似五更wǔ gēng时。
何も見えず何も聞こえない静寂の中、ぼんやりとして判然としない。
何百年も太陽の光を見ず、何万年も明月の影を見たことがない。
南北の区別がないのに、どうして東西を判別できるだろう。黒い煙が立ち込めて顔に吹き付けると寒気を覚え、冷たい空気は音もなく身体に浸みて全身がたがた震える。
人跡の到らぬところは、妖精が行き来する場所だ。両眼を見開いてもまるでめくらのようで、両手を伸ばしても手のひらが見えない。
つまるところ(農歴の)月末の(月明かりの無い)真っ暗闇のようで、五更の時刻(夜中の3-5時)のよう(夜明けは近いがまだ暗い)だ。
众人一齐都到殿内,黑暗暗不见一物。太尉教从人取十数个火把huǒ bǎ点着,将来打一照时,四边并无别物,只中央一个石碑,约高五六尺,下面石龟趺坐fū zuò,太半tài bàn陷xiàn在泥里。照那碑碣bēi jié上时,前面都是龙章凤篆lóng zhāng fèng zhuàn,天书tiān shū符箓fú lù,人皆不识。照那碑后时,却有回个真字zhēn zì大书dà shū,凿záo着“遇洪hóng而开”。却不是一来天罡星 tiān gāng xīng合当hé dāng出世,二来宋朝必显忠良,三来凑巧遇着洪信。岂不是天数!洪太尉看了这四个字,大喜,便对真人说道:“你等阻当zǔ dǎng我,却怎地zěn dì数shù百年前已注我姓字在此?‘遇洪而开’,分明fēn míng是教我开看,却何妨hé fáng!我想这个魔王,都只在石碑底下。汝rǔ等从人与我多唤huàn几个火工人等,将锄头chú tou铁锹tiě qiāo来掘jué开。”真人慌忙huāng máng谏jiàn道:“太尉,不可掘动!恐有利害,伤犯shāng fàn于人,不当稳便bù dàng wěn biàn。”太尉大怒,喝hè道:“你等道众,省xǐng得甚么shèn me!碑上分明凿着遇我教开,你如何阻当!快与我唤人来开。”真人又三回五次禀道:“恐有不好。”太尉那里肯听。只得聚集众人,先把石碑放倒fàng dǎo,一齐yī qí并力bìng lì掘那石龟,半日方才掘得起。又掘下去,约有三四尺深,见一片大青石板,可方丈围。洪太尉叫再掘起来。真人又苦禀道:“不可掘动!”太尉那里肯听。众人只得把石板一齐扛gāng起,看时,石板底下却是一个万丈wàn zhàng深浅shēn qiǎn地穴dì xué。只见穴内刮剌剌guā là là一声响亮,那响非同小可,恰似:
人々は一斉に殿内に入ったが、真っ黒で何も見えなかった。太尉は従者に十本余りの松明(たいまつ)に火を点けさせ、それで照らして見ると、四方にはとりたてて何も無かったが、ただ中央に石碑がひとつ有り、およそ高さが五六尺、下には石の亀が鎮座していたが、その大方が泥の中に埋まっていた。その石碑を照らして見ると、前面は龍の紋や鳳のように神秘的に屈曲した、神様の書いたまじないや秘文で、誰にも分からなかった。石碑の後ろを照らして見ると、はっきりした楷書で、「遇洪而開」(洪に出逢って開く)と刻まれていた。これは決して偶然ではなく、一に天罡星(てんこうせい。北斗七星の柄の部分。)がちょうど人間社会に降りて来るタイミングに当たり、二に宋朝に必ず忠誠賢良の士が出現することになっており、三にちょうどたまたま洪信に出逢ったためであった。まさかこれは天が定めた運命ではないだろうか。洪太尉はこの四文字を見ると、大いに喜び、真人に言った。「あなたがたはわたしを阻(はば)んだのに、どうして数百年も前に既にわたしの姓がここに書かれているのかね?「遇洪而開」は、明らかにわたしに開いて見るよう言っているのに、どうして邪魔をするんだ!わたしは、この魔王は石碑の底にいるに違いないと思う。おまえたち手下どもは、わたしに代わってもっとたくさん雑役をする僕(しもべ)たちを呼んで来て、くわやシャベルで掘り起こして開けてくれ。」真人は慌てて諫めて言った。「太尉殿、ここを掘って動かしてはなりませんぞ。恐らくたいへんなことが起こり、人々に危害を与えますぞ。こんなことをするのはよくありません。」太尉は大いに怒り、怒鳴って言った。「おまえら道士たちは、何を考えておるのか!石碑にわたしに出逢ったら開けさせるようはっきり書いてあるのに、おまえたちはどうして邪魔をするんだ!早くわたしに代わって人を呼んで来て開けてくれ。」真人はまた何度も申し上げて言った。「恐らく良くないことが起こります。」太尉がどうしてそれを聞いてうんと言うだろう。人を集めて来るしかなく、先ず石碑を横に倒すと、一斉に力を合わせ、かの石の亀を掘り起こし、半日かけてようやく掘り起こした。また掘り進めて行き、およそ三四尺(1-1.3メートル)の深さまになると、大きな青い石の板が見え、およそ周囲の長さが一丈(3.2メートル)ほどもあった。洪太尉は更に掘るよう命じた。真人がまた懸命に申し上げて言った。「掘って動かしてはなりませんぞ!」太尉がどうしてそれを聞いてうんと言うだろう。人々は仕方なく石の板を一斉に持ち上げ、見てみると、石の板の下は深くて底の見えぬ洞窟になっていた。ふと見ると穴の中からゴーッと凄まじい音が響き渡り、その音は普通とは異なっていた。あたかも:
天摧tiān cuī 地塌dì tā,岳撼yuè hàn山崩shān bēng。
钱塘江qián táng jiāng上,潮头cháo tóu浪làng拥yōng出海门hǎi mén来;
泰华tài huá山头shān tóu,巨灵神jù líng shén一劈yī pī山峰碎shān fēng suì。
共工gòng gōng奋怒,去盔kuī撞zhuàng倒了不周山;
力士施威shī wēi,飞锤chuí击碎了始皇辇niǎn。
一风撼折hàn zhé千竿gān竹,十万军中半夜雷。
天はぽっきり折れ地は陥没し、岳(高山)は揺れ動き山は崩れる。
銭塘江では、潮の先端の浪が海門(海と川の境)で押し合う。
太華山の頂上で巨霊神が斧を一振り振り下ろせば、山の峰が砕け散る。
水神の共工が憤怒し、兜を脱ぎ、ぶつかって(天を支える柱がある)不周山を倒した。
力士は威を振るい、鎚を飛ばして始皇帝の輦車(れんしゃ。皇帝の御座される車)を撃ち壊した。
一陣の強風が千本の竹をへし折り、十万の軍中に夜半雷鳴が轟く。
那一声响亮过处,只见一道黑气,从穴里滚gǔn将起来,掀塌xiān tā了半个殿角diàn jiǎo。那道黑气直冲上半天里,空中散作百十道金光,望四面八方去了。众人吃了一惊,发声喊,都走了,撇piē下锄头铁锹,尽从殿内奔将出来,推倒dǎo攧翻diān fān无数。惊得洪太尉目睁zhēng痴呆chī dāi,罔知所措wǎng zhī suǒ cuò,面色如土。奔到廊下,只见真人向前叫苦不迭jiào kǔ bù dié。太尉问道:“走了的却是甚么妖魔?”那真人言不过数句,话不过一席,说出这个缘由yuán yóu。有分教:一朝皇帝,夜眠不稳,昼食忘餐。直使zhí shǐ宛子城wǎn zǐ chéng中藏cáng 猛虎,蓼儿洼liǎo er wā内聚jù 飞龙。毕竟龙虎山真人说出甚言语来,且听下回分解。
かの轟音が響き渡ったところから、ふと見ると一筋の黒い煙が、穴の中から沸き起こったかと思うと、この伏魔殿の一角の半ばにぶち当たって打ち倒した。その黒い煙はそのまままっすぐ天の半ばまで突き進むと、空中で百十本の金の光に分かれ、四方八方に向け散って行った。人々はびっくり仰天し、叫び声をあげ、皆走って逃げ、くわやシャベルを放り投げ、尽くが殿内から飛び出して来て、押されて倒れ、転んでひっくり返る者は数知れずだった。洪太尉は驚いて目を見開きぼんやりとし、どうしてよいか分からず、顔から血の気が引いた。廊下まで逃げて来ると、真人が前を向いてしきりに悲鳴を上げていた。太尉が尋ねて言った。「逃げて行ったのはどんな妖怪なんだ?」かの真人は言葉少なに、ごくごく短く、このいきさつを話した。さてこのことで引き起こされたのは:今朝(こんちょう)の皇帝は、(心配のあまり)夜もぐっすり眠れず、昼食も食べるのを忘れた。そしてこのことで宛子城(えんしじょう。架空の城塞の名)の中には猛々しい虎が隠れ、蓼児窪(りょうじわ。楚州の南門外にあったとされる地名)には飛龍が集まった。さて龍虎山の真人はどんなことを言ったのでしょうか。次回に解説いたします。
こうして第二回以降、国を騒がす様々な事件が起こることになります。引き続き、『水滸伝』第二回以降を読んでいきたいと思います。