聊斎志異 | 中国語学習者、Congziのブログ

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京都で中国語の通訳案内士をしている、Congziです。このブログでは、これまで集めた中国語書籍の翻訳を投稿しています。中国史や中国文学が中心ですが、タイトルを見ておもしろそうだった本もあり、内容は雑多。ご自由に立ち読みしていってください。

 

 この話は、いわば中国版の『浦島太郎』です。浦島太郎は浜辺でカメを助けますが、主人公の陳弼教は、揚子江(長江)中流域の洞庭湖という湖で、ワニ(揚子江鰐)を助けたことで、その恩返しで、揚子江王一族の姫君の西湖主と結ばれ、巨万の富と不老不死を授かります。それでは『聊斎志異』の巻十から、『西湖主』の物語をお読みください。

 

 投稿容量の関係で、2回に分けて投稿します。

 

西湖主

 

 陈生弼教,字明允yǔn,燕yān人也,家贫,从副将军贾绾 jiǎ wǎn作记室,泊舟洞庭.适猪婆龙zhū pó lóng浮水面,贾射之中背。有鱼衔xián龙尾不去,并获之。锁置桅wéi间,奄yān存气息;而龙吻wěn张翕,似求援拯yuán zhěng。生恻然cè rán心动,请于贾而释之。 携有金创chuāng药,戏敷患处,纵之水中,浮沉逾刻yú kè而没。

 

 生員(科挙の第一段階の県試に合格し、県学の学生の資格を持つ人)の陳弼教(ちんひつきょう)、字は明允(めいいん)、燕(古代の燕国の領域で、今の河北省を中心とする地域)の人である。家が貧しく、副将軍の賈綰(かわん)に従い記室(文書管理官)となり、洞庭湖の湖上に停泊した。ちょうど猪婆龍(ちょばりゅう。揚子江鰐の別称)が水面に浮いたので、賈綰が弓矢で射るとその背中に矢が当った。魚が一匹、鰐の尻尾をくわえて離れなかったので、魚ごと鰐を捕獲した。帆柱にくくり付けると、まだ微かに息をしていた。鰐が口をパクパク動かし、援けを求めているかのようであった。陳は可哀そうに思ったので、賈将軍にお願いし、鰐を湖に放してやった。刀傷治療の塗り薬(金創chuāng藥)を持っていたので、試しに矢の当った傷口に塗ってやり、鰐を水中に放してやると、しばらくの間水面を漂っていたが、やがて見えなくなった。

 

 

 后年余,生北归,复经洞庭,大风覆舟。幸扳pān一竹簏,漂泊piāo bó终夜,絓guà木而止。援yuán岸方升,有浮尸继至,则其僮仆tóng pú。力引出之,已就毙矣。惨怛cǎn dá无聊wú liáo,坐对zuò duì憩息qì xī。但见小山耸翠sǒng cuì,细柳摇青,行人绝少,无可问途。自迟明以至辰后,怅怅chàng chàng靡之mí zhī。忽僮仆肢体微动,喜而扪mén之。无何,呕ǒu水数斗dǒu,醒然xǐng rán顿苏dùn sū。相与xiāng yǔ曝衣pù yī石上,近午始燥zào可着zhuó。而枵肠xiāo cháng辘辘lù lù,饥不可堪。于是越山疾行,冀有村落。

 

 一年余り経ち、陳弼教は北方の実家に帰るのに、また洞庭湖を通った時、大風が吹いて船が転覆した。幸い、竹で編んだ籠を掴み、一晩中漂泊していたが、木に引っかかって止まった。岸によじ登ると、浮いた死体が続いて流れ着いたが、それは子供の召使であった。力いっぱい引き揚げたが、もう息絶えていた。悲しみのあまり、心にぽっかり穴が開き、死体と対面して座りながらひと息ついた。前方を見ると小山が一面濃い緑で聳(そび)え立ち、細い柳の青々とした葉が風に揺れていたが、行く人も極めて少なく、道を尋ねる術も無かった。ようやく微かにあたりが明るくなった早朝から昼過ぎまで、心の中は打ちしおれ、何も手がつかなかった。ふと子供の召使の肢体が微かに動いたので、陳は嬉しくなり召使の身体を撫でてやった。しばらくして、子供の召使は何斗かの水を吐き出すと、しばらくして目覚めた。一緒に着ていた服を石の上で日に晒して乾かすと、お昼近くには乾いて着れるようになった。するとお腹が空っぽでグウグウ鳴り(枵腸轆轆xiāo cháng lù lù)、腹が減って我慢できなくなった。それで山を越えて急ぎ、逗留できる村を捜しに行きたいと思った。

 

 

 才至半山,闻鸣镝声。方疑听间,有二女郎乘骏马来,骋chěng如撒shū;各以红绡xiāo额,髻插雉zhì尾;着zhuó小袖紫衣,腰束绿锦;一挟xiédàn,一臂青鞲gōu。度过岭头,则数十骑猎liè于榛莽zhēn mǎng,并皆姝丽,装束若一。生不敢前。有男子步驰chí,似是驭卒yù zú,因就问之。答曰:“此西湖主猎首山也。”生述所来,且告之馁něi。驭卒解裹粮授之,嘱云:“宜即远避,犯驾当dāng死!”生惧。疾趋jí qū下山。

 

 ようやく山の中腹まで来た時に、突然鏑矢(かぶらや。鳴鏑míng dí:矢の先に鏑(かぶら)をつけ、その先に鏃(やじり)をつけたもので、射ると鏑の穴から空気がはいって大きな音響を発して飛ぶ)の響く音が聞こえた。それで陳弼教がびっくりして耳を澄ましていると、ふたりの女が駿馬に跨ってやって来た。馬は豆を撒いたような音を響かせ駆けて(騁如撒菽chěng rú sā shū‌)来た。ふたりの女はそれぞれ赤い薄絹を額に巻き、もとどりに雉の尾の羽を挿していた。紫色の袖の短い服を着て、腰には緑の錦の帯を締めていた。片手に弓を持ち、もう片方の腕には青い皮製の袖覆いを身に着けていた。陳と子供の召使のふたりが山の頂を越えると、数十騎の馬が草木の茂みで狩りをしていたが、どの馬にも皆美しい女性が乗っていて、彼女たちは皆同じような装束をしていた。陳はこれ以上前に進む勇気が無かった。ひとりの男が徒歩で駆けて来たのが馬夫(馭卒yù zú)のようであったので、それで彼に尋ねてみた。男はこう答えた。「ここは西湖主様が狩りをされる首山です。」陳生はここに来たいきさつを話し、また男にふたりともたいへん腹が減っていると告げた。馬夫の男は腰に下げた包みを解き、糒(ほしいい)を取り出し陳生に渡すと、こう言って注意した。「急いで遠くまで逃げられた方が宜しい。西湖主様が走るのを邪魔されたら、死刑に処せられますよ。」陳生は恐れおののいた。急いで下山した。

 

 

 茂林中隐有殿阁,谓是兰若lánruò。近临之,粉垣fěn yuán围沓wéi tà,溪水横流;朱门半启,石桥通焉。攀扉pān fēi一望,则台榭tái xiè环云huán yún,拟于上苑,又疑是贵家园亭。逡巡qūn xún而入,横藤碍路,香花扑人。过数折曲栏,又是别一院宇,垂杨chuí yáng数十株,高拂朱檐zhū yán。山鸟一鸣,则花片齐飞;深苑微风,则榆钱yú qián自落。怡目yí mù快心,殆dài 非人世。穿过小亭,有秋千一架,上与云齐;而罥juànsuǒ沉沉chén chén,杳o无人迹。因疑地近闺阁guī gé,恇怯kuāng qiè未敢深入。俄é闻马腾téng于门,似有女子笑语。生与僮tóng潜伏qián fú丛花cóng huā中。未几,笑声渐近,闻一女子曰:“今日猎兴不佳,获禽绝少。”又一女曰:“非是公主射得雁yàn落,几空劳仆马láo pú mǎ也。”无何,红妆hóng zhuāng数辈shù bèi,拥yōng一女郎至亭上坐。秃袖tū xiù戎装róng zhuāng,年可十四五。鬟huán多敛雾liǎn wù,腰细惊风,玉蕊yù ruǐ琼英qióng yīng,未足方喻fāng yù。诸女子献茗熏香xūn xiāng,灿càn如堆锦。移时,女起,历阶而下。一女曰:“公主鞍ān马劳顿,尚能秋千否?”公主笑诺。遂suì有驾jià肩者,捉zhuō臂者,褰裙qiān qún者,持履chí lǚ者,挽扶wǎn fú而上。公主舒shūhàowàn,蹑niè,轻如飞燕,蹴入云宵yún xiāo。已而扶下。群曰:“公主真仙人也!”嘻笑xī xiào而去。

 

 生い茂った林の中に楼閣が見え隠れしたが、陳生は寺院だと思った。近づいて見ると、白い塀で何重にも囲われ、塀の外には渓流が勢いよく流れていた。赤いペンキで塗られた門が半分開き、石橋が門に通じていた。扉を押して中を眺めると、高殿が雲の上に聳え立ち、まるで皇室の園林のようで、またひょっとすると高貴な方のお屋敷ではないかとも思われた。陳生が躊躇(ためら)いながら中に入ると、縦横に伸びた藤の蔓が道を遮り、香り立つ花が鼻を衝いた。何度か通路の欄干を折れ曲がると、また別の建物が現れた。枝垂れ柳が数十本植えられ、枝が微(かす)かに建物の軒と接していた。山鳥が鳴くと、花びらが一斉に舞い上がった。静かな庭園に微かな風が吹くと、楡(にれ)の実が自然と落下した。その美しさに感動し、まるで夢の世界にいるように思った。小さなあずまやを通り抜けると、ブランコが一台あり、漕ぐと雲と同じ高さまで上がることができた。しかしそのブランコの縄は静かに下に垂れ、あたりには人影ひとつ見られなかった。陳生はひょっとするとここは閨房の近くではないかと恐れ、これ以上近づいて見る勇気が無かった。俄(にわ)かに門前を駆ける馬の蹄(ひづめ)の音が聞こえ、少女たちが笑いさざめいているようであった。陳生は子供の召使と急いで花の茂みの中に隠れた。しばらくして笑い声が次第に近づき、ひとりの女がこう言うのが聞こえた。「今日の狩りはあまり面白くなかったわね。獲物の鳥もとても少なかった。」また別の女が言った。「もしお姫様(公主)が雁を打ち落とさなかったら、ほとんど無駄骨になってしまうところだったわ。」しばらくして、赤い上着を着た女たちが何人も、ひとりの年若い少女を取り囲んであずまやに座った。その少女は袖の短い軍装をしていて、年の頃はおそらく十四五であった。結われた髷は雲のように高く積み上がり、スラっと細い腰回りは風が吹けば耐えきれずに揺れ動きそうであった。たとえ素晴らしい玉の美しさを以てしても、彼女の美しさとは比べようも無かった。女たちはある者は茶を献じ、ある者は香を焚き、着ている服は錦を重ねたように煌(きら)びやかであった。しばらくして女たちは立ち上がり、次々に階(きざはし)を下りて行った。女のひとりが言った。「お姫様(公主)は馬に乗ってお疲れなのに、まだブランコ遊びがおできになるのかしら。」公主は笑って「するわよ」と答えた。それである者は肩を貸し、ある者は腕を支え、ある者はスカートをまくり上げ、ある者は公主の身体を助け起こしてブランコに乗せた。公主は真っ白な腕を露出させ、先の尖った靴を履いて、その足どりの軽やかなことと言ったら、空を飛ぶ燕のようで、一蹴りで天空高く入って行った。女たちは公主の身体を支えてブランコから下ろすと、言った。「お姫様は本当に仙女様のようですわ。」大声で笑うと、あちらへ行ってしまった。

 

 

 生睨良久,神志飞扬。迨dài人声既寂,出诣秋千下,徘徊凝想。见篱下有红巾,知为群美所遗,喜纳袖中。登其亭,见案上设有文具,遂题巾曰:

 

  “雅戏何人拟半仙?分明琼女散金莲,

   广寒队里恐相妒,莫信凌波上九天。”

 

题已,吟诵而出。复寻故径,则重门扃锢 jiōng gù矣。踟蹰chí chú罔计wǎng jì,反而楼阁亭台,涉历几尽。

 

 陳生はそれらをじっと盗み見していたが、気持ちが高揚してきた。人の声が止んで静かになるのを待って、花の茂みの中から出て来てブランコの下へ歩いて行き、あたりをぶらぶらしつつじっと考え込んだ。ふと見ると垣根の下に赤いスカーフが落ちていて、先ほどの女たちが落としたものだと分かり、喜んで拾って懐に仕舞った。あずまやに上ってみると、テーブルの上に文具が並べられていたので、陳はすぐにスカーフの上に詩を書き記した。

 

  「雅(みやび)な戯(あそび)何人ぞ半仙に擬(なぞら)えん。

   分明(あきらか)に瓊女(けいじょ)は金蓮を散じる。

   広寒隊(月宮の仙女たち)の里(うち)応(まさ)に(あい)妒(ねた)むべし。

   凌波(りょうは。女の軽やかな足どり)に信(まか)せて九天に上ること莫(なか)れ。」

 

書き終わると、詩を吟じながらあずまやを出た。またもと来た道を戻って来ると、門は厳重に閂(かんぬき)がされていた。陳生は戸惑いどうしてよいか分からず、それで楼閣やあずまやの方に引き返し、ひと通り全て見て回った。

 

 

 一女掩yǎn入,惊问:“何得来此?”生揖之曰:“失路之人,幸能垂救。”女问:“拾得红巾否?” 生曰:“有之。然已玷染diàn rǎn,如何?”因出之。女大惊曰:“汝死无所矣!此公主所常御,涂鸦tú yā若此,何能为地?”生失色,哀求脱免。女曰:“窃窥宫仪,罪已不赦。念汝儒冠rú guān蕴藉yùn jiè,欲以私意相全;今孽niè乃自作,将何为计!”遂suì皇皇huáng huáng持巾去。生心悸xīn jì肌栗jī lì,恨无翅翎chì líng,惟延颈yán jǐng死。迁久,女复来,潜贺qián hè曰:“子有生望矣!公主看巾三四遍,冁然chǎn rán无怒容nù róng,或当huò dāng放君去。宜姑yí gū耐守nài shǒu,勿得攀树pān shù钻垣zuān yuán,发觉fā jué不宥bù yòu。”日已投暮,凶祥不能自必;而饿焰è yàn中烧zhōng shāo,忧煎yōu jiān欲死。无何,女子挑tiǎo灯至。一婢提壶榼hú kē,出酒食jiǔ shíxiǎng生。 生急问消息,女云:“适我乘间chéng jiān言:‘园中秀才,可恕则放之;不然,饿且死。’公主沉思云:‘深夜教渠何之?’遂suì命馈kuì君食shí。此非噩耗è hào也。”生徊惶huái huáng终夜,危不自安。辰刻向尽,女子又饷之。生哀求缓颊huǎn jiá,女曰:“公主不言杀,亦不言放。我辈下人,何敢屑屑xiè xiè告?”

 

 ひとりの女がいきなりこっそり入って来て、驚いて尋ねた。「どうしてこんなところに来られたんですか。」陳生は手を前で組む拱手の礼をして言った。「道に迷ってしまったんです。どうかお助けください。」女が尋ねた。「赤いスカーフを拾われなかったですか。」陳生が言った。「ここにあります。でももうこんなに汚してしまいました。どうすればいいでしょう?」そう言ってスカーフを取り出した。女は大いに驚いて言った。「あなたは死んでも行く宛てが無いですよ。これはお姫様(公主)がいつもお使いのもので、こんな落書きをしてしまって、どう言い訳するつもりなの?」陳生は色を失い、なんとか禍(わざわい)から逃れることができないかと、心から哀願した。女は言った。「皇宮の情勢を窺(うかが)い見れば、あなたの犯した罪はもはや赦されるものではありません。あなたは温厚な読書人の方のようだから、わたし個人としてはあなたを何事も無くお守りしてあげたいところですが、今回の禍(わざわい)はあなたご自身がしでかしたことだから、どう対処したものでしょうね。」そう言って慌ててスカーフを持って行ってしまった。陳生は恐れおののいて心臓がパクパクし、筋肉がブルブル震えた。恨むべきはここから飛んで逃げる羽が無く、ただ首を長くして死を待つしかなかった。大分時間が経ってから、女がまたやって来て、こっそり祝福して言った。「あなた、死なないで済みそうよ。お姫様はスカーフを三四回ご覧になって、クスッと笑われてお怒りの様子が無かったの。ひょっとすると、あなたを咎め無しで行かせてくださるかもしれないわ。とりあえず、我慢してお待ちになって。木に登ったり垣根を破って逃げようなんてなさらないで。万一そんなことが見つかったら、決して赦されませんからね。」日は既に西に傾き、凶と出るか吉と出るか予想だにできなかった。しかも腹が減って死にそうになった。しばらくして、女が提灯を提げてやって来た。ひとりの端女(はしため)が酒の壺や杯(さかずき)の類を提げ、酒食を出して陳生をもてなした。陳が急いで状況を尋ねると、女が言った。先ほど、わたしが頃合いを見計らってお姫様にこう申し上げておきました。「「花園におられたあの秀才のお方(科挙の県試の合格者ゆえ秀才と呼んだ)ですが、お許しになるんだったら解放してさしあげてください。そうでないと、飢え死にされますよ。」公主はしばらく考えて、こう言われたの。「こんな夜更けにあの方にどこへ行っていただくと言うの。」それであなたにお食事をお出しし、食べていただいたの。これは悪い知らせではありませんよ。」陳生は一晩中思い悩み、気持ちが落ち着かなかった。翌朝辰の刻が終わろうとする頃(辰の刻は7時から9時なので、9時近くになって)に、女がまた食事を運んで来た。陳生は女に、なんとかお姫様に事情を説明してくれと懇願した。女は言った。「お姫様は殺すとは言われていないし、解放してあげなさいとも言われていません。わたしたち下賤の者が、どうしてくどくどとご主人様を惑わすようなことが言えるもんですか。」

 

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 陳弼教は苦しい立場に置かれてしまいましたが、この後どのような展開を迎えるでしょうか?次回をお楽しみに。