Dr.誠です。

2月には岐阜県保険医協会の総会があり、昨年度の活動総括と2026年度の活動に向けての議案に関して、私が担当することになりました。結構エネルギーを使って書いたので、せっかくなのでその草稿をここに記しておこうと思います。
この二年間の政治の流れの復習に役立つはずです。
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【要約】
昨年2025年は7月に行われた参議院選挙の結果、政治の現場は衆参両院ともに少数与党となった。その後発足した高市政権においては、1999年から続いた公明党との連立関係が消滅、自民党は安定した基盤を持つ「自公政権」時代から、日本維新の会などの新自由主義的側面を持つ他党と連立を組まねば政策が進まない、混迷の時代を迎えることとなった。
医療介護の現場においては、2024年度診療報酬改定の悪影響と止まらない円安物価高の中で危機感が共有され、2026年度診療報酬改定に向けて日本医師会・保団連を中心とした医療従事者の部分的な共闘がみられた他、「高額療養費制度改悪」問題、「OTC類似薬の負担増」問題、「保険証廃止」問題など、運動体とメディアと患者市民らとの協働が深まり、一部問題においては政府決定を凍結に追い込むなど、医療運動としては躍動の1年でもあった。
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2024年9月、岸田政権の後任として第28代自由民主党総裁に就任した石破茂前総理は、就任早々の10月9日に衆議院を突如として解散し、解散総選挙を行った。2024年1月にスクープされた「自民党の裏金問題」が尾を引き、衆議院は自民公明両党の少数与党となった。2013年4月から始まった異次元の大規模金融緩和(アベノミクス)による「円」の希釈効果としての「円安物価高」は止まるところを知らず、米の品不足、ガソリンの高騰、生活必需品の相次ぐ値上げなど、社会は30年続いたデフレから、制御を失ったインフレ状態へと完全に突入した。
2025年1月には第二次トランプ政権が誕生、4月には恣意的な関税設定を武器に高圧的な外交を展開した結果としての、世界的な「関税ショック」が発生した。こうした市民の生活苦の中、政府与党は有効な打開策を打てず、また「裏金問題」は依然として政権への批判票となり、7月20日に行われた参院選では自民公明両党はまたも大敗を喫し、参院においても少数与党となった。
社会に不満を募らせ「非自民党政権」を求める有権者の一部は、この7月の参院選で「排外主義」を掲げる政党を支持、大きく議席を伸ばすこととなった。他党からも「外国人排斥」を訴える主張が相次ぎ、外国人を含め高齢者や生活保護受給者等、弱い立場の人々へのヘイトは半ば公然化、社会を分断していくこととなった。こうした極右排外主義的「自国第一主義」の思想潮流と、苛烈な資本主義の結末としての格差拡大による弱者へのしわ寄せは、日米を始め今世界各国を蝕んでいる。
政治体制はさらに不安定化した。参院選後も政権の支持率は低迷、石破前総理は総裁選に出馬することを断念した。9月7日の石破首相の退陣表明後、自民党総裁選では小泉進次郎氏を破り高市早苗氏が就任。その後の首班指名選挙においては、一時は野党が連携し国民民主党の玉木雄一郎代表が首班指名される可能性も出ていたがまとまらず、10月21日、高市氏が初の女性総理として選出された。「裏金問題」の解決に後ろ向きな自民党に対し公明党は反発、10月10日には26年続いた自公連立関係を解消することとなった。過半数を確保できなくなった自民党は日本維新の会との連立を模索、「連立政権合意書」と称した社会保障破壊の協定事項を制定し、「OTC類似薬の保険外し」等の具体的改悪を明文化した。
高市政権発足後、初の女性総理ということもあり強い支持が集まり、発足当初は支持率が80%を超える報道もあった。安倍政権時代の政治スタンスを継承、国粋主義的姿勢と排外主義的政策を柱として掲げたが、臨時国会におけるこうしたスタンスは「舌禍」も招き、11月7日の「台湾発言」は中国側の強烈な対抗措置に至り、米国トランプ政権からは抑制的な態度を求める要請が非公式に出るなど、大きな国際問題となった。
また防衛費拡大、その一環としての積極財政路線は、国内外に大きな影響を与えることとなった。12月に成立した2025年度補正予算では18.3兆円もの予算規模のうち11.7兆円が新規国債発行によるものであり、1.1兆円に及ぶ防衛費が追加計上された。背景には歴代自民党政権が米国に対して示してきた、5年で43兆円もの防衛費の積み増し、GDP比2%の防衛費確保、また対米投資5500億ドル等の契約がある。しかしながらその防衛費も、予算の使い残しが2023年度決算で1300億円、2024年度で1100億円程度あることが報道されている。
2026年度予算は122兆3092億円と閣議決定され、うち29.6兆円が国債増発によるものとされた。しかしこれだけの財政規模ながら、社会保障支出は医療年金介護等すべてにおいて、憲法25条「生存権」から鑑みて決して十分とは言えない。インフレ下におけるデフレ下のような国債の乱発は、利払いリスクを含めマーケットからさらなる「円」への不信任を招き、長期金利は26年ぶりに2%を超えた。ドルは147円台から157円台へと10円以上の円安となった。金価格も過去最高値となっており、歯科診療所の経営を圧迫している。この「円安」「インフレ」の二重苦から日本社会が脱出するためには、米国の要求に屈することない規律ある財政運営と、所得再分配と応能負担による生活者支援、中間層再建、そして金銭の不安なく健康と生活の安全が守られる「社会保障体制の充実」こそが必要である。
医療分野に目を向ければ、2025年は大きな制度改悪の圧力を「市民」と「メディア」と「運動体」が三位一体となり、押し返した一年となった。2025年度予算成立後の3月8日には、「高額療養費制度見直し」問題が通常国会において、患者団体等の反対で3回の方針転換の末「凍結」となった。当時与党であった公明党を含む自公維の「三党合意」、財政審建議「春の建議」、「骨太の方針」等、政財界一体となった社会保障抑制政策が矢継ぎ早に打ち出される中、「OTC類似薬の保険外し」問題では秋の臨時国会における議論の中で「保険外し」はさせず、12月には「差額負担」の議論にまで押し戻した。新たな地域医療構想に向けた病床削減や新規開業地域の行政による統制、2030年までに全医療機関への電子カルテの強制等を盛り込んだ「医療法等改正案」は、秋の臨時国会で残念ながら立憲民主党までもが賛成に回り成立してしまったが、引き続き粘り強い医療運動により地域医療に対する悪影響を防ぐよう、力を注いでいく必要がある。
2024年12月に新規発行が停止された従来の健康保険証を引き続き残そうという「保険証残せ」の運動については、岐阜協会を含む全国の協会・医会がトラブル調査を継続実施、マスコミ発表し、不合理是正を訴えた。利用率は低迷が続き、保険証廃止直前の2025年11月の全国平均利用率は39.24%に留まった。この間、保険証廃止強行が招く混乱回避のため、全国で様々な対策が行われた。5月には世田谷区・渋谷区で資格確認書の全員発行が表明された。7月末には国保・後期高齢の保険証有効期限を迎えたが、後期高齢者については1年間の暫定的な資格確認書の「全員一律発行」が行われることとなった。9月にはスマホ保険証、10月マイナ救急が全国展開されることとなったが、システム自体の不具合が是正されない中で、拙速かつ非本質的な事業と言わざるを得ない。12月1日には社会保険の保険証有効期限が終了を迎えたが、混乱回避のため2026年3月末日までの期限外利用が認められることとなった。弥縫策に次ぐ弥縫策であり、個人認証なしにマイナ保険証の運用ができるようになった時点でマイナ保険証の大義は失われたも同然である。今後は引き続き「保険証を返せ」運動として展開していく。
2026年は苦境の続く医療界の診療報酬改定が行われる。物価高や人件費高騰で公立病院は9割が赤字、診療所も4割が赤字となる中、協会・保団連以外にも、病院団体、日本医師会等が次々と改定に対する声明を発表した。ここまでの医療界全体の動きはここ数十年見られなかったものである。大枠は2025年末に本体+3.09%、薬価・材料は-0.87%で決着したものの、その内訳こそが大切であり、診療所を犠牲にして病院救済に充てようという意図が否定できない。またむやみな薬価引き下げが医薬品の供給不足を招いてきた側面も無視できない。生活習慣病管理料の見直し、外来管理加算の廃止などが危惧される中、さらなる現場の声を政治の場に伝えていく必要がある。協会、そして医療界全体の団結を広げていきたい。