風のない海で抱きしめて 5 | 向日葵の宝箱

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まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
快青大好きですが腐ではないコナンと快斗の組み合わせも大好きです!
よろしくお願いします。

「快斗、キッドからテレビ局に『OK』の返事があったって。」
「そうみてぇだな。」
無言で前を見据えたままの快斗の横顔を見つめながら青子が言うと、快斗は唇を強く引いて応えた。
それから後ろを振り返り、中森警部に視線を向ける。

「警部がオレに話がある・・・っていってたのも、これの事ですか?」
「ああ、その通りだよ。」
警部は頷くと溜息を吐いた。

「昨晩、鈴木次郎吉相談役から連絡があってね、今回の計画を明朝の朝情報を解禁してキッドに挑戦状を叩きつけるのだと息巻いてたよ。」
「まあ、そうでしょうね、あの爺さんなら。」
そう言いながら快斗が苦笑する。

「でも、快斗。OKの返事・・・って。」
不安そうに顔を上げる青子に快斗は視線を移すと、胸の前で両掌を上に広げながら言った。
「もちろんオレじゃない。それは青子も見てただろ?」
「うん。でも、それじゃあ・・・誰が・・・?」
やはり不安そうに俯く青子に快斗は深く息を吐くと視線を鋭くして顔を上げる。

「まあ、十中八九、あいつらだろうな。」
その言葉に警部が険しい表情で快斗を見つめる。

「先日の事件で蘭君を連れ去った・・・という、あの危険な連中かね?」
「ええ。まあ、鈴木相談役がオレを誘う餌とやらを入手して今回の計画を思いついたのは偶然だと思いたいですけど。もしかしたら・・・。」
「この計画の発案者がその組織だと・・・?」
歩み寄り問いかけた警部に快斗が頷く。

「可能性はゼロではないとは思いますよ。」
応えると快斗は眉間を寄せ、険しい表情のまま話し続ける。

「名探偵に聞いた話だと、あの組織の中に、オレの親父に変装術を伝授された人間がいるらしい。そいつはオレと同じく、変声機を使わずに誰にでも成りすます事が出来るらしい。だとしたら・・・。」
言いかけた快斗が唇を噛みしめた。

大切な父のマジックが、その組織により、殺人などの犯罪にも悪用されているという事だ。
それはマジックを愛し、そして、父を敬愛する快斗にとっては許せない事だ。
快斗は強くポケットの中で掌を握りしめる。

その時、快斗のスマートフォンが大きな着信音を響かせ鳴り出した。

「やっぱ来た。」
快斗は予想通り、という顔をすると警部を振り返った。

「警部、とりあえず、そういう事だから。警部も気をつけて。」
「わかった。快斗君も。」
「うん。わかってる。」
応えた快斗は、スマートフォンのディスプレイをスライドさせると耳許にあてて話始めた。

「電話の相手はコナン君のようだね。」
警部はそう言うと、青子の方を向いて言った。

「そういうわけだ。青子、ワシはすぐに警視庁に戻らねばならん。そのレセプションの日まではとりあえず何事もないと思うが、青子。お前はどうする?」
問いかけた父に青子は唇をぎゅっと強く結ぶと、携帯を耳にあてて話し続ける快斗の横顔を見つめる。

「青子は・・・。快斗のそばにいるよ。」
「そうか。そうだな・・・。それがいい。」
警部は微笑して応えると、青子の肩に掌をおいた。

「何かあったら連絡しなさい。」
「うん、ありがとう。お父さん。」
青子が応えると、警部は踵を返し歩き始める。
そして、キッチンを出ると、すぐに玄関から外に出かけて行った。
青子は玄関で父を見送ると、鍵を閉めて再び快斗の元へと向かった。
ちょうど通話を終えた快斗が顔を上げたところだった。

「青子。」
「快斗・・・。」
快斗は歩み寄り、名前を呼んだ青子に手を伸ばした。
そして抱き寄せると、耳許に顔を寄せる。

「必ず守るから。絶対にオレのそばを離れるなよ。」
その言葉に青子は大きく目を開いた。

以前の快斗だったら、こういう時、なんて言っていただろう。
危ないから離れていた方がいい・・・とか。
そういう言葉を口にしていたかもしれない。

でも、今の快斗は違うんだ・・・とそう強く思ういながら、青子は顔を上げると微笑して頷く。
「うん。」
笑顔で応える青子に快斗は目を細めると静かに唇を重ねた。

向き合うべき自分の運命がいくつも高い壁の様に立ちはだかっているのを快斗は強く感じていた。
だからこそ。

「ここで逃げるわけにはいかねぇからな。」
快斗は顔を上げると、青子を見つめてそう口にする。

自分の運命に挑んで。
戦っていく為の強い言葉。

その言葉をこの状況で口に出来るほど、いろんな試練を乗り越えて戦ってきた。
それが、快斗の生きてきた証。

「うん。」
快斗の手を強く握りながら、その隣で青子も深く頷く。
「そばにいるよ、快斗。何があっても。」
(だから、青子も・・・。)
そう、思いながら。

青子と快斗は再び唇を重ねた。

心を一つに。
強く深く、重ね合わせる。

そう、想いを込めて。