『鈴木財閥の鈴木次郎吉相談役がキッドに宛てた挑戦状、それに対してたった今キッドからSNSを通じてOKの返事があった事が明らかになりました。』

朝の登校前の慌ただしい時間帯。
だが、一人テレビの前で足を止めた哀は、呆然としてその画面を見つめていた。

「黒羽君・・・。どうして?」
そう呟いていた哀だったが、突然連打された玄関の呼び鈴に溜息を吐き、インターフォンを繋げる。
すると、そのカメラの向こうには、普段この時間、ここにはいるはずのない人物がいた。

「工藤君、どうしたの?こんな朝から。」
「灰原。お前に急ぎで話がある。開けてくれ。」
切羽詰まった表情で告げるコナンに哀は頷くと玄関へ向かい鍵を開けた。
そこにランドセルを背負ったコナンが飛び込んでくる。
哀は溜息を吐きつつ鍵を閉めると、コナンに視線を向けた。

「それで?話って何?また飛行船に乗って彼女に会いたいから解毒薬を出せっていうのはNGよ。」
コナンはその言葉に険しい顔をすると哀を見つめた。

「灰原、お前、朝のニュース見たか?」
「ええ。あの鈴木相談役がキッドに挑戦状を送りつけたって、さっきから何度も放送されているもの。」
「そうか。」
頷いたコナンが更に眉間を寄せ視線を鋭くしつつ、更に険しい表情をする。

「それじゃ、キッドからOKの返事が来たっていうのも聞いたよな。」
「ええ。黒羽君・・・、一体どういう事?」
その問いにコナンは唇を強く結んだ。
それから息を吐き顔を上げる。

「オメーに話してなかった事がある。だから今からその件も含めて説明するよ。」
コナンのいつになく真剣なまなざしに、哀は事の重大さを実感をすると、リビングに向かい歩き始めた。
そして、ソファーに座り向かい合うと、コナンが哀をまっすぐ見て話し始める。

「実は一か月ほど前、あの組織に蘭が攫われた。」
その言葉に哀は大きく目を瞠った。
「なんですって!?どうして?」
「原因は、これだよ。」
コナンはそう言って、あの時快斗から送られたSNSのリンクをスマートフォンで開き哀の前に差し出す。

「海外でその写真がかなり広く出回ってたらしい。それで、それを見つけた組織が俺を・・・。工藤新一を誘い出す為に蘭を連れ去った。その時の実行犯はおそらくウォッカ。」
「どうして」そんな詳細に・・・。」
呟いた哀にコナンが息を吐き応える。

「あいつが調べたんだよ。蘭の携帯の電波が途切れた時間と場所。それに、蘭が攫われた場所の近くに設置されていた防犯カメラの映像。すべて通信会社とかにハッキングして。」
「それって、もしかして・・・黒羽君?」
「しかいねぇだろ?んな事出来るのは。」
コナンはそう言うと、わずかに苦笑を漏らした。
それから再び顔を上げると、目の前の哀を見て話し始める。

「それで、結論から言うと、あいつが工藤新一に成りすまして組織に呼び出された場所に向かい蘭を救出した。」
「そう。」
ほっと息を吐いた哀にコナンは唇を強く引くと、瞼を伏せて告げる。

「それと、結果的に、工藤新一は以前消息不明。蘭はこの件とは無関係という事になった。」
「えっ・・・?」
思わず声を上げた哀にコナンは顔を伏せると、膝の上で拳を強く握る。

「そして今、組織の・・・。ジンの一番の標的はあいつ、怪盗キッドになった。」
「なんで?どうしてそんな事に・・・。」
身を乗り出した哀にコナンが溜息を吐く。

「全部あいつがそう仕向けたんだよ。おそらくその意図には、自分に注目を向けさせる事で、灰原。組織のお前への意識を逸らす事も含まれてると思う。」
「なんでそれを全部黒羽君が背負わなきゃならないのよ。あれは・・・私たちの責任でしょ?黒羽君が背負うべきものじゃない。」
立ち上がって声のボリュームを上げた哀にコナンは頷く。

「ああ、もちろん。その通りだよ。だから、お前に頼みがあるんだ。」
「工藤君・・・。」
呼びかけた哀にコナンが顔を上げる。

「俺の為でも蘭の為でもない。あいつの為に・・・。お前の力を貸して欲しい。」
その言葉に哀は大きく目を開くと掌を強く握り深く頷く。

「わかった。黒羽君の為なら。なんでもするわよ。」
「サンキュー、助かるよ。」
そう言って少しだけ微笑したコナンに哀が目を細める。

「それにしても。黒羽君らしいわね。」
「ああ、本当に。」
頷いたコナンが一瞬だけ目許を和らげ応えると、哀は再びその場に座り言った。

「それじゃ、詳しく聞かせて。あなたの計画。」
「ああ。」
頷いたコナンは、再び哀を見つめると、哀に語り始めた。

今回の鈴木次郎吉の計画の裏にあると思われるもの。
そして、それを打開する為の策を。

哀は真剣な表情でその話に耳を傾ける。


そして、あっという間に時は過ぎて。
鈴木次郎吉相談役がキッドの挑戦に指定したレセプションの日を一同は迎える事になった。

それぞれの想いを胸に抱いて。