祝福 2 | 向日葵の宝箱

向日葵の宝箱

まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
快青大好きですが腐ではないコナンと快斗の組み合わせも大好きです!
よろしくお願いします。

目を覚ますと、オレはベッドの上で体を起こし、両手を組んで上に上げて大きく伸びをした。
数週間前まではそうすると、体にまるで電流が走ったような痛みを感じていたが、今はそれもなくなった。

「よし。」
オレはそう小さく口に出すと、腕を横に伸ばしたり、体をゆっくりとひねってみたりと軽くストレッチをしてみた。
そうしながら、ここに至るまでの出来事を頭の中で思い浮かべる。

オレが17になったあの日、自室に飾ってあった親父の写真のパネルが突然忍者屋敷の隠し扉の様に回転した。
そして、オレはそこでキッドの衣装を見つけた。

あの日はオレにとってまさしく運命が変わった日。
そういっても差し支えないだろう。

その日からオレは、世間を騒がせる泥棒、怪盗キッドとしての活動を開始した。
それから間もなくオレは、親父がとある組織に『パンドラ』と呼ばれるビッグジュエルを執拗なまでに探し求める組織に殺された事を知り、パンドラの破壊と親父を殺した組織への復讐を誓う。

そうしていくつもビッグジュエルを、警察が厳重に警備する中から盗み出し、パンドラではない事を確認すると持ち主に宝石を返して。
時は過ぎていった。

そのまま流れ続けると思っていた時間は、突然終わりを迎えたんだ。

晩秋のとある日に、いつもの様に宝石を盗み出し、予定していたルートでハンググライダーで帰宅しようと空を飛んでいたオレだが、組織のスナイパーによる襲撃を受けて、狙撃された時にハンググライダーが破壊された事と、ハンググライダーを破壊してなおかつ威力の衰えない鉛の弾がオレの背中に食い込み、航行不能となったオレはそのまま中空から地面へと叩き落された。

更に、その場所で待ち構えていた組織に、目の前で青子が連れていかれるのを何も出来ないままオレは見ている事しか出来なくて。
その時の悔しさを思い出し、少しだけ拳を握り唇を噛みしめた。

それから先の記憶は朦朧としていたが、そのまま組織に殺される運命だったオレを、最大の敵であり、ライバルでもあるあの名探偵に救われたんだ。

名探偵の助けにより命の危機を脱したオレは、すぐに攫われた青子を取り返す為に動き始めた。
そして、無事に青子を助け出したオレはその日、青子の目の前から姿を消した。

青子への告白だけを残して。

「快斗、おはよう。」
ちょうどその時、青子が軽くノックした後、扉を開けて入ってきた。

「おはよう、青子。」
オレはベッドの端に腰掛けて青子に手を伸ばすと、青子に軽く口づけをして顔を上げる。

「具合はどう?」
「うん、だいぶ痛みも引いてきたし。いい感じかも。」
応えたオレに青子が柔らかく微笑む。
「そう、良かった。」
そんな青子にもう一度手を伸ばすと、オレは唇を重ねた。

青子の目の前から姿を消したオレは、3か月ほど組織の目をかいくぐり、あの組織が何者であるかの調査を続けた。
だが、どれだけ周到に身を隠しても、必ず感づかれて、そのたびに姿を変え、アジトを変え、動き続けていたが、結局その期間の成果は全く無かった。

そして、ある日、なぜか伝えていないはずの電話に寺井ちゃんから電話が掛かってきて、組織が青子にずっと張り付いている事を知らされる。
もちろんその情報自体が組織の罠だってわかってた。

それでも、オレが自分で始めたオレ自身の戦いに巻き込まない為に青子から離れたはずなのに、その青子が組織に張り付かれている状況をもちろん見過ごす事なんて出来なかった。
だからオレは、組織の思惑通りとは知りながら、休学中だった白馬の姿を借りて学校に向かった。

予想通り、組織はすぐに仕掛けてきた。
オレが通う江古田高校の生徒・教師全員の命を人質にして。

オレは青子を一人逃がすと、学校のみんなを救うため、奴らが求める怪盗キッドの身を差し出した。
望み通りキッドを手に入れた組織のやる事は、容赦なく非道なものだった。
それから数週間の時間は、オレにとって、本当に。
まさに地獄としか言いようがなかった。

今でもあの時の事を思い出すと、体中の傷が疼き出す。
そんな気がする。

両手、両足に鎖で繋がれていた枷(かせ)の重みも。
何もかもをずたずたに引き裂かれる想いも。

きっと、オレは一生、あの時間を忘れる事はないだろう。
そんなオレを助け出してくれたのもやはり、あの名探偵だったんだ。

「快斗?」
心配そうに首を傾げ、オレの顔を覗き込む青子。

元々、鈍感で。
元気だけがとりえ・・・みたいなのが青子だったのに。

最近は、少し大人びてきて、普段じゃ絶対気づかないようなオレの細かい心情にもすぐに気づくようになった。
そんな青子が愛しいと思うと同時に、すまない・・・とも感じる。

本当はただの普通の女の子だったはずの青子の時間をオレが奪ってしまったんだ。

今のオレの存在は、災厄を振りまくパンドラのようなもので。
青子は、その箱の中に残された唯一の希望なんだ。

「大丈夫。」
応えたオレは息を吐くと青子を見つめた。