果てしなき迷宮(ダンジョン)14 | 向日葵の宝箱

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まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
快青大好きですが腐ではないコナンと快斗の組み合わせも大好きです!
よろしくお願いします。

「はい、もしもし。」
コナンの手の中にあったスマートフォンをサッと抜き取り快斗は自分の耳許にあてると、コナンに背を向けて話し始めた。

『お前・・・工藤新一か。』
「ええ、もちろん。」
その問いかけに快斗は新一の声で口許を上げて応える。
コナンは強く唇を結んだまま、そんな快斗の背中をじっと睨む様に見つめていた。

『お前の女は今ここにいる。返して欲しけりゃ、お前一人でここに来い。サツに連絡したら、この女をぶっ殺す。』
「わかりました。それで、もちろん蘭は無事なんでしょうね?」
『それはお前次第だ。』
「なるほど。」
応えると快斗はフッと息を吐いて微笑を浮かべる。

「それで、僕はどこに行けば良いのか教えてください。」
『ああ、この電話のすぐ後にこの女の携帯からメールを送る。そのメールに女との待ち合わせ場所が書いてある。』
「わかりました。それで、あなたの名前は?」
たずねた快斗にその男は、ナイフの様な声の鋭さだけで人を殺せそうな嘲笑を上げた。

『これから死にゆく野郎に名乗る名前は持ち合わせちゃいねぇんだよ。じゃあな。タイムリミットは22時。それまでにお前が来なければこの女を生きたまま東京湾に沈める。』
その言葉に快斗は目許をスッと細めて言った。

「必ず迎えに行きますよ。僕の命に代えても。」
「ハッ、気障な野郎だぜ。」
捨て台詞の様にそう言い残すと、プツリと通話が途絶える。
その直後、メールの着信音が夜の静寂の中に響いた。

快斗はすぐにメールを開いて確認すると、そのままその携帯を自分のポケットに入れて歩き始める。

「それじゃ、行ってくる。」
背中を向けたまま右手を上げた快斗を見据えたままコナンが言った。

「待てよ。俺の携帯を返せ、怪盗キッド。」
その呼びかけに快斗は振り返ると、ポケットに指先を入れたまま口許を上げる。

「その頼みは聞けねぇな。奴らからまた何か追加の指示が入るとしたら、確実にこの携帯に着信がある。その時、お前がこの携帯を持っている事を奴らにバレたら、オレの計画が台無しだ。」
「バーロ―!!お前はここで引け。蘭は俺が助けに行く。」
「その姿で?」
問いかけた快斗にコナンが頭を振る。

「灰原に解毒剤を出してもらう。今からすぐに動けば、設定されたタイムリミットの22時までには間に合う。」
そう言って前に歩みより、携帯を返せと右手を差し出したコナンを快斗は鋭く見据え、口を開いた。

「お前、この前の北海道の事件覚えてるだろ?」
「ああ。」
問いかけた快斗にコナンが頷く。
そんなコナンを見据えたまま快斗は真剣な表情で言った。

「毒も薬も、服用を続ける事で必ず体に抗体が出来て耐性がついちまう。今だって、何度も使ってるせいで、体が戻っても元に戻る時間が徐々に短くなってるんだろ?」
「それは・・・。」
言い掛けたコナンに快斗は息を吐いた。

「例えば今回お前が元の姿に戻り蘭ちゃんを迎えに行ったとして、蘭ちゃんを連れて逃げる途中で元の姿に戻ったらどうする?その時にまた蘭ちゃんを一人で置いて消えるのか?それとも組織の奴らがいる目の前でその姿に戻るのか?」
淡々と告げる快斗の言葉にコナンは唇を強く引いた。

「んな事したら、あの薬に体を小さくする作用があった事がバレちまう。そうすると、間違いなくその奴らの手は哀ちゃんにも及ぶ。違うか?」
たずねた快斗にコナンは無言のまま掌を強く握り締めた。

「何かオレが言ってる事に間違いがあるなら言ってみろよ、名探偵。」
「いや・・・。」
コナンはそう口にすると俯きがちに拳を握った。

「青子が・・・。」
口調を緩めると息を吐いてわずかに瞼を伏せた快斗の顔をコナンは見上げる。

「青子が、必ず蘭ちゃんを助け出してくれって。オレに言ったんだ。」
「お前・・・。」
呼び掛けたコナンに快斗が柔らかい微笑を浮かべてコナンを見つめる。

「オレにとっても蘭ちゃんは大切な人だ。だから、今オレが動く本当の理由は、それだけでも充分なんだよ。」
そう言って笑う快斗にコナンは深く息を吐いた。

「お前に借りてるこの姿は、オレ自身の正体を隠す為の隠れ蓑でもあるし、オレの大切な人達を守る為の盾でもある。だから、この姿だけは悪いけど借りてくぜ。」
「あと、携帯もな。」
「ああ。」
溜息を吐いたコナンに快斗が頷く。

コナンは快斗に歩み寄ると目の前に立って手を伸ばした。
そして、快斗の右手を取り、快斗の瞳を見つめる。

「頼む、キッド。蘭を必ず取り戻してくれ。」
「ああ、もちろん。」
応えると快斗はその場で煙幕を張り、そのまま闇の中に消える。

「じゃあな。」
再びそう告げた快斗の声だけが、余韻の様に響き渡っていた。