想いと永遠の狭間で《2024プラレボ.ver》中編 4 | 向日葵の宝箱

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まじっく快斗・名探偵コナンの小説を中心に公開しています。
快青大好きですが腐ではないコナンと快斗の組み合わせも大好きです!
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青子の家の前まで着くと、オレは扉の前で一度立ち止まった。
そして寺井ちゃんに素っ気ない態度をとってしまった事をちょっとだけ後悔しつつ、深い溜息を吐く。

あれはただ自分の弱い部分を晒したくなかった・・・という、ただのオレの意地というかプライドの問題で。
別に寺井ちゃんが悪いわけじゃない。
だから別にあんな風にしなくても、もうちょっとやりようはあったんじゃないか・・・なんて。
そう思うんだけど、その何かは到底今の自分では考えつかなかった。
そんな事を思いながらもう一度扉の取っ手に手を掛けたまま溜息を吐く。

その時、内側から扉が開いて、良く見慣れた人物がオレの顔を見上げた。
「何やってんだ、お前?」
不思議そうにキョトンとした顔でオレを見上げたそいつはもちろん名探偵で、なんとなく気まずくてオレはフイと視線を逸らした。
「別に。」
「へぇ~。」
苦笑混じりに肩をすくめた名探偵にオレは溜息を吐くと再び前を向いて言った。

「ずっと待ってたのか?」
「ああ、もちろん。それに、この家の主(あるじ)もお待ちかねだぜ?」
オレの顔を見上げると、名探偵はそう口許を上げて微笑する。

「主・・・そっか、警部帰ってるのか。」
「ああ。それでお前の為に・・・。」
名探偵が言い掛けた、その時。

「快斗!!」
後ろから小走りで駆けてきた青子がオレの名前を大きな声で呼んだ。
「青子姉ちゃん、お帰り。」
「ただいま、コナン君。」
オレも良く見慣れたよそ行き用の子どもらしい声の名探偵に、青子もにっこりと微笑んで笑みを返す。

「青子。」
呼び掛けると、青子がオレを見上げた。
「快斗、寺井さんと何かあった?」
問われたオレは、隣に立ち何も言わずにオレを見上げる名探偵の視線を意識しつつ頭を振る。
「うん、いや・・・別に。」
応えたオレに青子が少しだけ目を細める。
「そっか。ならいいけど・・・何かあったらちゃんと言ってね。」
そう言ってジャケットの袖を掴んだ青子にオレは瞼を伏せて頷く。
「うん、わかった。」
応えると青子が柔らかく微笑して頷く。

「あれ?」
そうしているうちに後ろからあいつが来て、いまだに玄関の前で立ち話をしていたオレ達を見て首を傾げた。
「何やってんだよ、そんなとこで。」
やはり先ほどの名探偵とおんなじ事を言うあいつにオレは苦笑しつつ名探偵を見下ろす。
「さっきオレとあいつが兄弟みたいだなって話をしてたんだけど。オレとあいつより、よっぽどお前らの方が兄弟みたいじゃないか?おんなじような顔しておんなじ事言うし。」
ぼやく様に呟いたオレに青子がオレ達三人の顔を交互に見て笑った。

「じゃあ快斗と快斗とコナン君、みんな兄弟でもいいんじゃない?もちろん一番お兄さんはコナン君で♪」
ねぇ~・・・と。
笑い掛けた青子に名探偵が苦笑いを零す。
「いや、こんな世話のかかる弟が二人もいても・・・。」
「てっ・・・、名探偵!なんだよそれ!?」
あいつは不満そうに一番に声を上げた。
「見た目じゃどう見ても名探偵が年の離れた末っ子だけど。」
「確かに。」
横目で口を挟んだオレにあいつが笑いながら頷く。
「お前らなぁ!!」
そうしてケラケラ笑うオレ達を睨みながら名探偵が声を張り上げた。
その様子を青子がフフフッ・・・と口許に手をあてて楽しそうに見つめる。

そうこうしているうちに今度は、家の中からピンクの花柄のエプロンを首から掛けた警部が扉を開いた。
「帰ってたのか、青子。」
「お父さん!!」
青子は応えると、オレ達の背中を後ろから押して中に押し込むと玄関の扉を閉める。

「ただいま、お父さん。」
「おかえり。」
応えると警部は、オレの顔をまっさきに見つめた。

「良く来たね。」
そうして少し厚みのある掌がオレの頭の上に置かれる。
「ゆっくりしていきなさい。」
そう言いながら警部は少しだけオレの髪を撫でると手を離して笑みを浮かべた。

その胸に響くようなあたたかい声にオレは唇を強く引いて頷く。
そんなオレにもう一度微笑んでから警部は踵を返して再びキッチンへと戻っていった。
その背中を見て少しだけ立ち尽くす背中にあいつが手をおいた。

「ほら、早く入れよ。」
自分の家みたいにそう言って笑うあいつにオレは微笑して頷く。
まるで家に帰ってきたみたいな安心感に、オレはホッとするのと同時に、心の片隅で。

(本当の今のオレは・・・。)
そう、心の中で思いながら。
どこかほの悲しくなるような切なさも感じていたんだ。
[newpage]
そうして、オレ達が家の中に入ると、青子と名探偵が先にリビングに入って、快斗達は待っててね・・・と。
オレ達を足止めした。

「なんだろう?」
「さあな?」
苦笑したあいつにオレは首を傾げる。

それからしばらくして、青子に「いいよ。」と声を掛けられて。
オレはリビングの取っ手に手を掛けて扉を開いた。
次の瞬間、パンッパンッパンッ・・・と。
軽くこだまする破裂音が室内に響いた。

「えっ・・・?」
二人で声を合わせたオレ達の目の前にヒラヒラと小さな紙吹雪と細いテープが空中を舞う。
呆気に取られて顔を見合わせるオレ達の前に青子が進み出てニッコリと笑った。

「ハッピーバースデー、快斗!!」
青子はそう言うとオレとあいつの間に立って、それぞれの頬にほんの軽く触れるだけのキスをした。
「ほっぺだけだし、お前は特別だから。いいよ。」
それを見たあいつが軽く苦笑しながら言うので、オレは微笑して頷く。
「サンキュ。」
応えたオレはそれから少し屈むと、すかさず青子の頬にキスをした。

「あっ・・・!!」
そんなオレの予想外の行動にあいつが声を上げた。
オレは口許を軽く引き上げて笑う。
「ほっぺはいいんだろ?」
「まあ、確かにそう言ったよな。」
苦笑する名探偵からフイと視線を逸らしてあいつがは唇を尖らせる。
「たくっ・・・こいつ、わかってやってるからたち悪いよな。」
「当然。」
「まぁ、基本お前だし。」
「名探偵~!!」
抗議の声をあげるあいつに、警部も名探偵も声を上げて大笑いして。
そんな警部達を見ながら大きく溜息を吐いて頭を掻くと、あいつは青子に顔を寄せてさっきオレがしたのと反対側の頬にキスをした。
すぐに顔を上げて指先で頬を掻いたあいつに青子が柔らかく微笑む。
「快斗、ありがと。」
「うん。」
応えたあいつと青子が柔らかい表情で笑みを交わす。
オレはそんな二人を微笑しながら見つめていて。
しばらくの間、何も言わずにオレ達を見守っていた名探偵が一歩進み出ると、オレ達の顔を交互に見て言った。

「それで・・・見てみろよ、この料理。」
そう言われてテーブルの上を見ると、そこにはところ狭しとばかりに料理がズラリと並んでいた。
その中央には『HAPPY BIRTHDAY KAITO』と書かれた大きなホールケーキまで用意されている。

「すっげぇ、全部警部が作ってくれたの?」
あいつがたずねると、警部がエプロン姿のまま胸の前で腕を組んで頷く。
「ああ、まだ誕生日本番には数日早いがね、せっかく快斗君が二人もいるんだから、二人まとめて祝っとくというのもありじゃないかと思ってね。」
そう笑う警部にオレはわずかに目を細めた。
「警部・・・。」
「おめでとう、快斗君。」
そういうと警部は、オレ達の肩に手を置いて言った。
「君達が生まれてここに生きている事を、何よりも誇りに思いなさい。」
その言葉にオレは大きく目を開いて警部を見つめる。

「いいのかな?オレはここにいて。」
思わず口をついて出た言葉に警部が目許を細める。
「当然だろう。」
そう言うと、再び大きな掌をオレの頭の上に置いて、ゆっくりと撫でる様な仕草でオレに笑い掛けた。
「君が今ここに生きている。それはものすごい奇跡だよ。」
大切にしなさい・・・と。
その深みのある声でいわれて。
オレは数瞬瞼を閉じて頷く。

「うん。ありがとう・・・警部。」
「構わんよ。遠慮せずしっかり食べなさい。」
そういってオレの背中に手を置いてから踵を返した警部にオレはもう一度深く頷くと、あいつと名探偵、青子の顔を見渡して言った。

「今日は、みんな・・・ありがと。」
少し照れくさい思いでそう伝えたオレに、みんなが柔らかく微笑む。
そんな光景を見ていたら、オレは思ってしまったんだ。

終わりなんかこないで欲しい。
どうか。
ずっとこのままで・・・って。