大学入学共通テスト「国語」第4問の「古文」の現代語訳と解答・解説です。


※この現代語訳や解答速報は、吉田裕子が個人の趣味で作っているものです。出講先とは関係がありません。
※速報性を重視して発表しているため、誤字脱字や事実誤認などにお気づきの際はコメントやinfo@yusendo.clubあてでお知らせいただけましたら幸甚に存じます。
※学校などの授業で使われたい場合はご自由にどうぞ。申告は不要です。


【文章Ⅰ現代語訳】『在明の別』(山の座主、慌て参りたまへり…)

 山の座主は、慌てて参上しなさった。(大君の)御枕のそばに呼び入れ申し上げて、右大臣は、御手をすり合わせながら、仏に物を申し上げるように、「とにかく、もう一度、目を見合わせなさってくれ。たくさん(子どもが)います中に、どのような縁なのか、幼い頃から(あなたのことを)比類ないほど(大切に)思ってきました(親心の)盲目(の苦悩)を、(こんな形で死なれてしまったら)全く晴らしようがありません」と泣き惑いなさると、(山の座主は)とても静かに数珠を押し揉みなさって、「令百由旬内、無諸衰患」と(お経を)読みなさっている御声は、澄んではるかに上る感じがすると、変わっていく(大君の)ご様子は、少し持ち直り、目をわずかに開けなさった。(周囲に)いる皆、むしろ慌てふためいて、「誦経よ、何よ」と混乱しなさるが、やはり、正気な人とも見えず、御容貌も変わっているような感じで、その人(=大君)とも見えなさらない。とても気品があって身近な感じがするけれど、嫌な感じの目元の様子に関し、左大臣はそのようにも見分けなさらない中、父親(右大臣)だけが、とても不思議に思い、「思いがけない人に似なさっているのだなぁ」と納得しないように自然と思いなさる中、(女君が憑依した大君が)少し動いて、

  様々に朝夕焦がす内心の苦悩を一旦どこに晴らそうか(いや晴らせない)

 とおっしゃる様子が全くその当人でもなく、(女君であることが明白で)違うはずもないのを、父親の大臣のみぞ、繰り返し「不思議だ」と(不審に思って首を)傾けなさらずにはいられない。

 そうして、正気がおありでないので、また気を失って、全く(この世に)留まることもできそうになくいらっしゃるのが、(山の座主は)「今はひどくはいらっしゃらないだろう」と平静になりながら、とても嗄れている御声(での読経)をやめ、薬師の呪文を繰り返し読みなさると、御物の怪が姿を現し、小さい童に乗り移らされた。大声を出して叫び続ける声に、今や(大君本人の)御意識が出てくるのだろうか、人々が見つめ申し上げる中、「決まりが悪い」と思いなさって、お気持ちで(顔を)隠しなさる。


【文章Ⅱ現代語訳】『源氏物語』若菜下(院も、「ただ、いまひとたび…)

 院(=光源氏)も(妻 紫の上に対して)「ただ、もう一度、(目を開けて私と)目を見合わせなさってください。とても張り合いなく命の限りを迎えてしまっているような(あなたの最期の)場面をさえ見届けられずにいたことが無念で悲しいよ」と取り乱しなさっている様子が(まるで院までもがこの世に)生き残りなさることが出来る様子でもないのを(周囲で)拝見する心地は、ただ想像してください。(院の)大変なご悲痛を仏も拝見しなさるのであろうか、(御利益があって)この数ヶ月全く姿を見せずにいる物の怪が小さい童に乗り移って、大声でわめくうちに、(妻 紫の上が)だんだん蘇生しなさるので、嬉しくも不吉にも動揺しなさらずにはいられない。

 激しく調伏されて、「(院以外の)人は皆去ってしまえ。院お一人のお耳に申し上げよう。自分を、ここ数ヶ月、調伏し苦しませなさることが、思いやりなく薄情なので、どうせなら(私の苦しみを院が)思い知りなさるようにしようと考えたけれど、そうは言っても、命が耐えられそうにないほど、身を粉にして混乱しなさる(院の)様子を拝見すると、今はこのようなひどい姿になっているが、昔の(院を愛する)心が残って、このようにまで(院の周囲に)参上したので、心苦しい(院の苦しむ)様子を放って置くことができなくて、とうとう現れ出てしまったこと。(私が紫の上に取り憑いていることは)決して知られないつもりだと思ったのに」と言って、髪を(顔などに)掛けて泣く様子は、ちょうど、昔(=葵の上が苦しんでいたとき)ご覧になった物の怪の様子だと見えた。

 

問1 (ア)②(イ)①(ウ)③ それぞれ「いはけなし」「なかなか」「ののしる」の語義通り。「呼ばふ」は、「呼ぶ」に、古い助動詞「ふ」(反復・継続)が付いた語で、「呼び続ける」「何度も呼ぶ」の他、「言い寄る」「求婚する」の意味もある。

問2 ② aに関しては、ハ行四段「たまふ」已然形で、尊敬の補助動詞。専門的なお経を読んでいることから、主語を判断する。直前の「(右大臣が)泣きまどひたまふ」の後、主語が変わる方が多い接続助詞「に」が使われていることもヒントになる。bに関しては、選択肢が「 」の話し手を教えてくれる。後は、「おはす」が尊敬語だと分かれば良い。a・bで選択肢が決まるので、むしろcは読解のヒントに使える。

問3 (ⅰ)④ 物の怪の発言の締めくくり部分、「つひに現れぬること。さらに知られじと思ひつるものを」が、④に対応する。④の選択肢の残りの部分、「光源氏のいたわしい姿を見過ごすことができずに」に関しては、「命もたふまじく~見たてまつれば」「ものの心苦しさをえ見過ぐさで」に書かれていると判断できる。

(ⅱ)② リード文に書かれている「(女君は)苦悩を深めていた」をヒントにする。「晴るく」=「心を遣る」は、気持ちのモヤモヤを晴らす、ということ。

(ⅲ)④ 和歌の直前2行の内容。選択肢後半については敬語の問題cがヒントになる。