東大入試2022年の古文(浜松中納言物語)の出題箇所の現代語訳です。速報版ですが、受験生ならびに同日模試受験者の復習用にお役立てください。

 

隠そうにも堪え切れない胸中(=御門の后への恋心)を今にも打ち明けてしまいそうになるけれど、やはりそれは難しく、どうしようもなく切ない中で、皇子もちょっと立ち去りなさるので、后の前にいる者たちもそれぞれ何かおしゃべりするのであろうかと(その声が)聞こえているのに紛れて(中納言は歌を詠んだ)、

中納言の和歌:ふたたびと……(あの夜について考え合わせることも二度とできずにおります。あの逢瀬の夜はどのように見た夜の夢であるのでしょうか)

 大変こっそりとごまかしなさって(お伝えして)いる。

后の和歌:夢とだに……(夢としてでさえ、どうして思い出しているのでしょうか。ひたすら幻のように見た私たちのあの逢瀬は対面した内に入るのでしょうか、いや入らないでしょう。)

堪えることも晴らすこともできない中納言のご様子の苦しさに、はっきりと言うわけでもなく、ほのかに紛らわすように(歌を)言って、滑り込むように中に入りなさった。人目を気にする度合が並々でなければ、引き留め申し上げるだろうが、賢明に抑制する。
 
内裏より皇子がお出ましになり、管弦のご演奏が始まる。中納言は(后に関する懊悩から)どんな楽器の音色も頭に入ってこないけれど、ここにいるのも今夜が最後だと思うので、意志を確かに持って耐え、琵琶を頂戴しなさることも、現実のように思えない。

御簾の中で(后が)琴の琴を(中納言の弾く)琵琶に合わせてお弾きになっているのは、未央宮で耳にした音色であるにちがいない。そのままこの国の餞別のお品に加えなさる。

「いよいよ(帰国しよう)」と、言葉にする甲斐もなく、決心してしまったのに、とても心惹かれる感じでお話しになった后のお声の様子や姿が、中納言の耳につき、心にしみ、魂も消え惑うようで、全く物も考えられないでいらっしゃる。

「日本に母上をはじめ(心残りのある人がいる)、大将殿の姫君と親しくなった後すぐに別れて来てしまった悲しみなど、類ないものに違いないと、誰のせいにもできないことながら思ったけれど、生き永らえていたら、三年以内に必ず帰国しようという考えで自分を慰めたことでも、(悩みの尽きない)胸にも休まるときがあった。ここは、再び帰って来られる国だろうか、いやもう再渡航してくることはできないだろう」
と断念(しようと)すると、色々なものに目が留まり、しみじみ感慨が深まるのは当然の話であって、后が、もう一回中納言との逢瀬に関し、かけ離れたご身分でありながらも、よくあるような感じで大変親しみ深く振る舞っていらっしゃるのも、(取り付く島もないほどに冷たくされるよりも)、中納言は並外れた心労がいっそう募ってきて、自分の身や后の御身にとって(そばにいれば)様々に入り組んだ問題が出て来てしまいそうな仲の遠慮されることを、后が遠慮なさる道理も、むやみに恨み申し上げるような筋合いもないことで、どうしたらいいのか、と思い乱れる内心は、言いようもないのだった。

「本当にせめて、ひどく距離を置き、情愛もなく、薄情に振る舞いなさるなら、どうしようか、いや、どうしようもない。(自分との子である)若君との方面に関しても、自分のことをひたすらには見捨てなさらないのであるようだ」と自然に推し量る心がどきどきしても、(一方では、これから離れ離れになるので)今にも消え入りそうなほどに落ち込んで、暮れゆく晩秋の別れ、やはりとても痛切に、気持ちを晴らしようもない時節である。

御門や東宮をはじめとし申し上げて、別れを悲しみ、惜しみなさる様子は、自分の国(日本)を離れたときの皆の悲しみぶりよりも、少し上回っている。