東京大学 国語 二〇二一年の古文(『落窪物語』かくて、「今年の賀茂の祭…)現代語訳です。
こうして、「今年の賀茂祭は大変おもしろいだろう」と(世間が)言うので、衛門督の殿(道頼)は、「(見に行かないのも)物足りないから、女房達に祭り見物をさせよう」と言って、以前から、御牛車を新調し、女房達の衣装などもお与えになり、「(祭り見物に出かける際の格好を)見苦しくないようにせよ」とおっしゃって、準備をして、当日になって、一条大路に牛車を止めるための杭を打たせなさっているので、「もう行きましょう」と皆が言っても、「(ゆっくり出かけたところで)誰が(自分達の確保した)場所を取るだろうか、いや取るまい」とゆっくりとお出かけになる。
牛車五輌ほどに、(大人の)女房二十人、(さらに)二輌に女の童が四人、下仕えの女四人が乗っている。道頼がそれらを連れなさっているので、道頼の御前に四位・五位の人々がとても多い。衛門督の弟で侍従だった人は今は少将、殿上童でいらっしゃった人は兵衛佐、その二人も「一緒に(祭りを)見物しよう」と申し上げなさったので、見物にいらっしゃったその方々みんなの車までもが行列に加わったため、二十輌あまりも車が続いて、「皆、身分の順序に従って牛車が立ち並んだなぁ」と道頼がご覧になっていらっしゃると、自分側の杭を打っている反対側に、古めかしい檳榔毛の牛車が一輌、網代車が一輌停まっている。
御牛車を停める際に、「男たちの乗る牛車は縁遠い人でもないので、親しい(感じで話ができる)ように牛車を揃え、見渡せるよう(道を挟んで)南北に並べなさい」と命じなさると、(供の者たちが)「この向こう側にある車、ちょっとどきなさい。こちらのお方の御車を停めさせる予定だから」と言うと、相手は強情に聞かないので、道頼が「誰の車か」と質問させなさると、「源中納言殿」と申し上げるので、「中納言の物であっても、大納言の物であっても、これほど(空きも)多いところに、どうして我々の打ち杭があると分かりながら牛車を停めたのか。少しどけさせなさい」と命じなさるので、雑色たちが(どかない牛車に)近寄って、車に手をかけると、先方の車の従者が出てきて、「どうしてまた、あなた達はこんあことをするのか。何ともせっかちな雑色だなぁ。あなた方の主人はいかにも権門らしくいばり散らしているが、そちらも(こちらと同じように)中納言でいらっしゃるのでは。一条大路も皆、領土としなさるおつもりか。横暴だ」と笑う。
(道頼の従者は)「うちの主人には、西(=院?)も東(=東宮)も斎院も畏れて、道を避(よ)けてお通りになるに違いないそうだぞ」と(言うと)、(先方の)口の悪い男がまた言うと、(道頼の従者がさらに)「同じ中納言だなどと、そちらの殿様とこちらの殿様をいっしょくたに言うな」などと言い争って、(先方も)急には車をのけないので、道頼一行の御車はまだ並べてとめることができない。
道頼は前に仕えている中の左衛門蔵人(帯刀)に、「あの車を処理して少し遠くへやりなさい」と命じなさるので、彼らは近くへ寄って行って、ただどけにどける。先方は仕える者の数が少なく、(押しやられる牛車を)引き止めることができない。(いちおう先方にも)三、四人の人が御前に仕えていたのだが、「(争っても)甲斐がない。これはいさかいに必ず発展してしまいそうだ。今の太政大臣の尻を蹴ることがあったとしても、この道頼様の牛飼の従者に手を触れられようか、いや触れられない」と言って、人の家の門のところに逃げ込んで立っている。目をわずかに出して様子を覗いている。
(道頼は)少しせっかちで恐ろしい人だと世間に思われなさっているが、本心の御心立ては、とても親しみやすく、のどかなかんじでいらっしゃった。
解答例(あくまで解答速報レベルということで。また精査します)
(一)
ア 手持ち無沙汰で物足りないので、女房達に見物させよう
イ 誰が横取りするだろうか、いや誰も取るまいとお思いになって
ウ 「一緒に見物しよう」と申し上げなさったので
(二)向かいの車の主が、今の場所から立ち退くことを強情に拒絶した。
(三)衛門督は一条大路までも皆支配しているのか、いやそんな訳はあるまいということ。
(四)自分たちの主人である衛門督を源中納言と同じ地位扱いしないで欲しいということ。
(五)衛門督を、その従者の牛飼いにみだりに触れるのも憚られる程の権勢だと評価した。
※これは国語講師・吉田裕子が個人的に作成したもので、出講先の組織的な見解ではありません。
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