平安時代後期の物語文学『堤中納言物語』に収められている「はいずみ」という短編のワンシーンを描きました。 





* * 「はいずみ」のあらすじ * *


男は長年、妻と同居していたものの、お世話になっている人を頻繁に訪ねるうち、その娘と懇意になります。


その新しい妻と同居しようと考え、元の妻を追い出すことにしますが、彼女の引っ越し先を訪ねてみると、あまりのみすぼらしさで、気の毒になってしまいます。男は考え直し、彼女を家に連れて帰り、新しい妻との同居を断ります。


ある日、男は不意に新しい妻を訪ねます。しかし、急な訪問に慌てたその女は、はいずみ(眉墨)を白粉と間違えて、顔に塗ってしまうのでした。新しい妻の黒い顔を見て呆れた男は、元の妻の待つ自宅に戻ります。


男の帰宅を残念がる新しい妻の両親がやってくると、娘の黒い顔にびっくり。はいずみを塗った自覚のない本人も、鏡を見て、何事かと大騒ぎします。治療をしようと陰陽師を呼ぼうとしたところ、涙で化粧が落ちて、新しい妻は元通りの顔に戻ったのでした。


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後半はコメディになりますが、途中までの話の構造は、『伊勢物語』23段の「筒井筒」や『大和物語』149段に似ていますね。


出典の『堤中納言物語』は短編集で、風の谷のナウシカの着想のもととされる「虫愛づる姫君」という話が有名です。